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日外会誌. 122(4): 366-367, 2021

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若手外科医の声

外科医にとっての研究

東北大学 消化器外科

山村 明寛

[平成15(2003)年卒]



キーワード
研究, 外科医, キャリア

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I.はじめに
医学生時代は基礎系科目が大の苦手で,PCRを1度回したような記憶があるものの,その原理も全く思い出せないようなレベルでした.スーパーローテート制度が開始される前最後の年に医師となりましたが,外科医になる前にしっかりローテートがしたいと思い総合病院での研修を選択しました.医師になってから研究するという道があることすら私にはイメージできず,外科医として研修を積んでいくことしか考えていませんでした.そんな時に,一緒に外科をやろうと東北大学に誘ってくださったのが海野倫明教授でした.海野教授は,「Academic surgeonたれ」と,外科医における研究およびリサーチマインドの大切さを常々口にしていました.

II.医師に業績は必要ない?
東北大学への入局と同時に大学院に入学し,分子病理学の堀井明教授の元で研究が始まりました.そこではMDではないポスドクも研究を行っていましたが,研究室に入って早々に言われたことは,「医者は業績いらないから卒業できればいい」ということでした.Non-MDの先生は業績がないといつ解雇されるか分からない状況で,懸命に成果を出そうとしていました.一方自分には確かに外科医という逃げ道がある.彼らと同じ舞台で研究をする以上,結果はさておき研究に対する姿勢は真摯でなければいけないと心に留めました.ただ,研究に費やす時間とは裏腹に,何カ月も結果が出ないなんていうこともざらにあり,経験したことのない焦りとストレスで,口内炎が止まらないという時期もありました.

III.教科書に載る仕事をしよう
大学院をなんとか卒業した後,市中病院での後期研修中にシンガポールへの留学の話がありました.英語の自信も全くなく,留学のイメージもなかったため戸惑いました.ただ,研究と臨床の両方に精通する医師への憧れと,英語が喋れるようになるかもという淡い期待で留学を決めました.留学先の伊藤嘉明教授に初めてお会いした時にかけていただいたのが「一緒に教科書に載る仕事をしよう」という言葉でした.臨床をしている時には考えたこともなかった,心を揺さぶられる一言でした.心が躍るのと同時に,身の引き締まる思いがしたことを覚えています.

IV.大変だったら帰って来ればいい
しかし現実はそんなに甘くなく,2年契約の留学のうち1年半もの間,全くと言っていいほどデータが出ませんでした.実験がうまくいかない時は一人で思い悩むばかりで,周囲とのディスカッションも少なくなることで英語もろくに話さず,一体留学までして何をやっているんだろうと挫折感でいっぱいでした.そんな時に思い出されたのは,海野教授が留学する時にかけてくださった「大変だったら帰って来ればいい」という言葉でした.この言葉に救われて最後までチャレンジしてみようと思い,そこから胃の幹細胞研究へとテーマを変えることで徐々にデータも出てきました.結局留学も1年半延長することになりました.また,臨床検体を扱う実験に切り替えたことで実際に手術室に標本を取りに行き,消化器外科のJimmy So教授はじめシンガポール国立大学の外科の先生方とも知り合うきっかけになりました.

V.外科医にとっての研究
当然研究期間は手術から離れることで外科医としてもブランクになります.研究をするよりも,専門医を早く多く取った方が外科医としてはキャリアになるかもしれません.しかし長い外科医人生を考えた時に,研究に没頭した時間は臨床においても必ず糧になるものと信じています.論理的な病態把握や日々複雑化する多様な治療原理の理解,論文検索や論文作成など,基礎研究に対する姿勢はそのまま臨床に通ずると思います.また,研究を通して出会った仲間との出会いも貴重です.そして何より,新しいものを発見できるかもしれないというロマンがあります.研究はスムーズにいくことの方が少なく,辛い思いをすることが多いと思いますが,これから研究を始める先生には,ぜひ不退転の覚悟で研究に臨んで欲しいと思います.そして,もしうまく行かない時は逆に外科医であることを強みに,今だけといい方向に諦めて研究に没頭して乗り切って欲しいと思います.そして,機会があれば是非留学にもチャレンジしていただきたいと思います.

VI.おわりに
今回貴重な執筆の機会をいただき,自分のこれまでを振り返るいい機会になりました.執筆の機会を与えてくださった編集部の皆様,推薦していただいた本誌編集幹事の大沼忍教授に感謝申し上げます.また,留学を含め研究を後押ししてくださった海野教授,サポートいただいた医局の先生方にこの場を借りてお礼申し上げます.私も中堅の学年となってきましたが,これまでの経験をもとに後輩たちの指導ができる外科医を目指すべく,これからも日々研鑽していくつもりです.

 
利益相反:なし

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