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日外会誌. 122(2): 244-246, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(6)「時代が求める外科医の働き方」 
3.職務満足度調査から見た外科医の職務特性

国家公務員共済組合連合会立川病院 外科

亀山 哲章

(2020年8月15日受付)



キーワード
職務満足, 外科医, 職務特性, 倫理観

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I.はじめに
少子高齢化が急激に進む日本において,国民医療費の増加に対し,医療費適正化と称する医療費抑制策が行われている.これによる医療機関の経営悪化は,病院勤務医の労働環境を悪化させており,病院における医師の人的資源管理が重要となっている1)
日本の医師数は漸増しているが,外科医は減少している.病院の外科医の減少は,過重労働を加速させ,それを見た初期研修医は,専門科として外科を選択しない傾向がある2).しかし初期研修期間では診療科としての特性を十分に理解できない可能性がある.診療科によって扱う疾患や病態が異なることは明らかであるが,現在までに診療科の特性,つまり職務特性は明らかにされていない.
本研究は,一般病院における医師の人的資源管理において,診療科別に医師の職務満足度を調査することにより,外科の職務特性を明らかにすることを目的とする.

II.研究方法
Hackman and Oldham3)が提唱した多次元的構成概念による職務特性モデルを基本に離職意思,社会的公共性,倫理観を問う項目を加えたアンケートによる調査を行った.
アンケート完全回答総数415名分のうち,一般病院勤務医(内科75名,外科80名,その他の診療科86名)を対象とし分析した.
加えて,外科においては,一般病院勤務(80名)と大学病院勤務(82名)を対比し分析した.
今後の分析においては,一般病院勤務の内科(以下:内科),外科(以下:外科),その他の診療科(以下:その他)の3群に関して行っていく.さらに外科に関しては,大学病院勤務の外科(以下:大学外科)との相違も検討する.

III.解析結果
1 職務満足度
各診療科間において職務満足度の五つの下位尺度平均は7点中4点台であり,勤務医は比較的職務に満足しているという結果であり,内科,外科,その他の3群ともに有意差は認めなかった.
2 職務特性
2-1 職務特性尺度の分析
28項目に対して主因子法による因子分析を行った結果,以下の7因子が抽出された.
倫理観,診療科の重要性,他者との関わり,フィードバック,自律性,スキル多様性,タスク完結性
2-2 診療科間での検討
診療科間での職務特性の各下位尺度平均得点を図1に示す.
職務特性の各下位尺度得点について一元配置分散分析を行い,多重比較をScheffe testにより有意差検定を行った.
「倫理観」では,外科は内科よりも有意に高かった.
「診療科の重要性」,「他者との関わり」,「フィードバック」では,外科は内科,その他よりも有意に高かった.
2-3 外科と大学外科の比較
外科と大学外科の職務特性の各下位尺度平均得点を図2に示す.
外科医の病院形態間の検討を行うために,職務特性の各下位尺度得点についてt検定を行った.
「倫理観」,「診療科の重要性」,「他者との関わり」,「フィードバック」では有意差はなかったが,「自律性」,「タスク完結性」においては有意に外科が高い得点を示し,「スキル多様性」においては有意に大学外科が高い得点を示していた.

図01図02

IV.考察
本研究で抽出された医師の職務特性は七つであり,職務特性の概念である診療科の重要性,自律性,スキル多様性,タスク完結性,フィードバック,他者との関わりおよび倫理観であった.
自律性を除く診療科の重要性,タスク完結性,フィードバック,スキル多様性,倫理観,他者との関わりに関しては,外科が最も高く,続いてその他,内科であった.自律性においては,その他,内科,外科の順であった.
また,外科と内科では,倫理観,他者との関わり,診療科の重要性,フィードバックに有意差を認めた.外科とその他では,他者との関わり,診療科の重要性,フィードバックに有意差を認めた.
これらは臨床現場での現状を反映しており,例えば倫理観において外科が内科よりも高い理由は,外科医には職業生活へ深くコミットできる医師が多いことや手術という侵襲度の高い手技や人の最期を看取る機会が多いことが要因になっていると考えられる.
以上より本研究によって診療科の重要性,フィードバック,倫理観,他者との関わりの四つが診療科の職務特性を規定している可能性が示唆された.
次に,職場環境について考察してみる.
外科と大学外科で有意差を認めた因子は,診療科間では有意差を認めなかった自律性,スキル多様性,タスク完結性の三つであった.自律性とタスク完結性においては,外科が大学外科よりも高かった要因は,一般病院では比較的少ない医師数で診療にあたっているため,医師個人の裁量が大きく,診療を一貫して行っていることが挙げられる.これに対し,スキル多様性は大学外科が外科よりも高かった.この理由は,大学病院は高度な医療の提供や高度な医療技術の開発などを行う場であることから最先端の診療に携わっていることが考えられる.
以上より,外科においては,一般病院と大学病院という職場環境は,自律性,タスク完結性,スキル多様性の三つに規定されている可能性が示唆された.

V.おわりに
本研究において,診療科によって職務特性が異なること,外科においては職場環境によって職務特性が異なることを実証的に明らかにすることができた.

 
利益相反:なし

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文献
1) Shibuya K , Hashimoto H , Ikegami N , et al.: Future of Japan’s system of good health at low cost with equity:beyond universal coverage. Lancet, 378(9798): 1265-1273, 2011.
2) 寺野 彰 :医事法トピックス―医療職者の過労死.日本医事法学(編),年報医事法学24,日本評論社,東京,pp212-219, 2009.
3) Hackman JR , Oldham GR : Work redesign. Addison-Wesley, Reading, Massachusetts, 1980.

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