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日外会誌. 122(2): 227-229, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(5)「地域を守り,地域で生きる外科医たちの思い」 
7.地域の移植医療を守り,次世代につなげていくために必要なこと

1) 国立病院機構水戸医療センター 外科
2) 国立病院機構水戸医療センター 臓器移植外科

小﨑 浩一1)2) , 湯沢 賢治2) , 加藤 丈人1) , 寺島 徹1)

(2020年8月14日受付)



キーワード
茨城県, 移植専門医教育, 移植医療, 地域医療, 医療過疎

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I.はじめに
2018年末わが国の人口10万人当たりの医師数は258.8人であるのに対し,水戸医療センターが位置する茨城県は,187.5人で全国ワースト2位,医師偏在指数は全国第42位の医師少数県である.そして外科医は,2018年の厚生労働省の報告によれば,その減少が目立ち1),日本外科学会からの報告でも,外科医師数は1998年以降減少してきている2).一方茨城県では日本医師会総合政策研究機構によると,2018年の人口10万人当たりの外科専門医数は13.1人で,全国の16.7人に比して少なく,そして医療施設に従事する医師に占めるシェアは全国が4.4%に対し1.8%と低く,当県は全国に比して外科医が少ない3).それゆえ移植医療においても医師不足の影響は免れず,当県では移植手術に従事する外科医も必然的に少ない状況である.
現在茨城県の臓器移植は,われわれの水戸医療センターと筑波大学附属病院の2施設で腎移植のみが行われている.この2施設では外科医が中心となって腎移植を外科診療の一部として施行しており,とくに腎移植医療を外科単科で行っているのは当院のみである.そして茨城県には腎移植の専門医である日本臨床腎移植学会腎移植認定医は4名しかおらず,1名は既に移植の現場から離れ,残り3名は当院に勤務しており,両施設とも移植に習熟している医師は少ない.それゆえ今後腎移植ができる外科医を育成しなければ,当県の移植医療が消滅することが懸念される.当院では臓器移植プログラムを開始以来,「地域医療の中での移植医療」を守り,継続し,次世代に繋げていくために何をすべきかを考え,移植医を育成するという問題に取り組んできた.

II.水戸医療センターの移植医療体制と移植医の育成
水戸医療センターは茨城県の中央に位置し,ドクターヘリを備えた第三次救命救急センター,がん診療指定病院,日本透析医学会認定施設そして日本臓器移植ネットワーク臓器移植施設として指定された,500床を有する地域の基幹病院である.当院の外科は,消化器外科・心臓血管外科・呼吸器外科・乳腺外科・臓器移植外科によって構成され,腎移植は外科・臓器移植外科合同で施行している.当院は2006年5月から臓器移植プログラムを開始し,2020年8月までに,腎移植106例(7.6件/年),生体肝移植1例を行ってきた.腎移植106例中26例が献腎移植であるが,当院は,5名の常勤麻酔医がおり24時間手術対応が可能で,緊急手術である献腎移植はいつでも施行でき,実際にわれわれは同日に2例の献腎移植を2回施行,さらに当院で発生した脳死ドナーから2腎摘出後,同日に2例の献腎移植を行えたように,臓器移植を行うに理想的な環境を整えている.当院の腎移植の診療体制は,われわれが主体となって腎移植の診療を行い,必要に応じて他科に診療を依頼する形を取っている.現在当科では他院で移植した患者を含め約200名の腎移植患者が通院し,それらの患者の診察・治療を通して若い外科医に免疫抑制法・合併症などの指導を行い,移植医としての育成を行っている.その一方で当科の2015年から2019年までの腎移植数は3〜6例/年と少なく,県全体でも2016年から2018年の3年間の献腎ドナーは1〜3例/年程度,腎移植も2施設で15〜20例/年程度で,県全体で献腎ドナーも腎移植も少ない(図1).このように腎移植関連手術が少ないため,症例の多い癌手術などで血管吻合・尿路再建術などの指導・教育を行っている.さらに腎不全患者である腎移植患者の管理に関しては,当院が血液浄化療法を外科が管轄する日本透析医学会認定施設という点を生かし,血液透析患者を診察・治療することで血液透析や慢性腎不全の病態,腎不全外科(内シャント作成など)の指導・教育を行っている(図2).その結果腎移植認定医を1名育成することができた.

図01図02

III.今後の課題
現在当院には60歳代・50歳代後半そして30歳代の腎移植認定医3名がいるが,このうち2名は数年のうちに定年を迎え,現場に残る腎移植認定医は1名のみとなる.現在県内には300人余りの献腎移植希望者がおり,残される腎移植認定医1名で生体腎移植を含めて全てに対応し,今後も腎移植を継続,継承していけるかには懸念が残り,場合によっては当県の腎移植が消滅する怖れがある.県全体で腎移植が少ない中で,「地域医療の中での移植医療」を守り,継続し,次世代に繋げていくための課題は,若い外科医に移植医療を効率よく短期間で修得させ,「移植ができる外科医」として安全に移植を行える医師をできるだけ多く育成するための堅実なプログラムを確立することである.

IV.おわりに
当院が「地域医療」を支える中核病院であることを考えると,医師不足の茨城県から望まれているのは腎移植に特化した外科医ではなく,腎移植を含めた様々な手術ができる外科医を育成することである.それゆえわれわれは当県の現状を念頭に置き,「腎移植は外科の一部」という考えで指導を行ってきた.
それゆえに「地域医療の中での移植医療」を守り,外科医として生きていくためには,移植医療を一般外科医療の中に内包し,若い医師には外科治療の中の腎不全外科ということで指導し,育成していくことが重要である.

 
利益相反:なし

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文献
1) 厚生労働省:平成30年医師・歯科医師・薬剤師統計の概要,2018.
2) 宮本 敦史 , 永野 浩昭 , 土岐 祐一郎 ,他:日本外科学会 会員アンケート調査.日外会誌,109(3):173-179,2008.
3) 日本医師会総合政策研究機構ワーキングペーパー 2018年度版.

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