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日外会誌. 122(2): 217-220, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(5)「地域を守り,地域で生きる外科医たちの思い」 
4.地域外科医療の現状と地域における外科医の役割

岩美町国民健康保険岩美病院 

渡邉 淨司

(2020年8月14日受付)



キーワード
外科医減少, 地域外科医療, 外科系総合診療医

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I.はじめに
外科医療を取り巻く環境は年々厳しさを増しており,外科医の減少と集約化の時勢の中で地域外科医療維持は喫緊の課題である.自治医科大学は,僻地等における医療の確保向上のために設立された大学であり,47都道府県から学生を集め全国に卒業生を送り出している.地域外科医療の現状を把握するため,全国で活躍する自治医科大学卒業外科医を対象にアンケート調査を行い,地域における外科医の役割について考察した.

II.方法
外科・消化器外科を標榜し,義務年限を終了している卒後10年目以上の自治医科大学卒業外科医181名を対象にアンケート調査を行い,123名(回収率68.0%)から回答を得た.このうち,出身都道府県が回答された120名(66.3%)を対象に検討を行った.
所属施設が大学病院および急性期総合病院と回答した群を「大規模病院(n=50)」,一般総合病院(多数科標榜)と回答した群を「中規模病院(n=31)」,一般病院(少数科標榜),療養型病院および開業医と回答した群を「小規模病院(n=39)」と定義し,当直回数,待機回数,緊急手術体制,手術時の診療応援状況および診療応援距離,外科医による麻酔状況,消化器内視鏡担当状況,他科診療担当状況,消化器内科有無,麻酔科有無について比較した.本調査は2015年2~3月に実施した.

III.結果
【回答者の背景】
回答者は東日本に多く(北海道・東北 27人,関東 21人,中部 27人),西日本に少なかった(関西 21人,中国・四国 11人,九州・沖縄 13人).回答者の卒業後年数は平均23.8年であった.
【当直・待機状況】
当直回数は小規模病院で多く,約半数が週1日以上の当直業務を行っていた.待機回数は中小規模病院で多く,約半数が週1~2回の待機業務を行っていた(表1A).
【手術体制】
緊急手術体制は大規模病院では概ね整っており,小規模病院の約30%は緊急手術対応をしていなかった.小規模病院では40%以上が手術時に他施設へ診療応援を日常的もしくは時々依頼しており,70%以上が50km以上の遠距離応援を必要としていた.また,小規模病院では外科医による麻酔が約67%の施設で行われていた(表1B).
【他科領域診療】
皮膚科や泌尿器科など他科領域の診療は90%以上の施設で日常的もしくは時々担われていた.大規模病院では消化器内科,麻酔科がほぼ全施設であるのに対して,小規模病院では両科ともある施設が少なかった(表1C).

表1A表1B表1C

IV.考察
中小規模病院では,当直・待機回数が多く,外科医による麻酔が多く行われており,消化器内科および麻酔科のある割合が低く,他科診療を担う機会が多くなっていた.このように,外科医が総合診療医として手術だけでなく,多岐にわたる業務を担うことで地域医療が支えられている現状が明らかとなった.
神田ら1)は「自治医大卒総合医」「消化器・一般外科専門医」「消化器内科専門医」「産科・婦人科専門医」「小児科専門医」「整形外科専門医」「循環器内科専門医」を対象に,各疾患に対して,「診断」「治療」がどこまで可能かを調査し報告している.これによると,最も多くの疾患で「診断」「治療」が可能と回答したのは「自治医大卒総合医」で,内科系診療科がこれに続く傾向であった.一方,外科系診療科の中で「消化器・一般外科」は他の外科系診療科と比較して内科系診療科に類似しており,比較的総合診療能力の高い外科系診療科であることが示された(図1).「消化器・一般外科」は,疾患頻度の多い消化器科として多くの疾患に関わる機会があり,周術期管理として全身管理を行う機会が多く,患者が他科領域の疾病を併発しても継続的に主治医として診療を継続する場合が多い.このように,消化器・一般外科は,総合的に患者を診る機会の多い診療科であるため,本来の外科診療以外の業務を担うことが必然的に多くなっていると考えられる.
芳賀ら2)は,今後の人口減少と高齢化の影響を考慮して将来の外科手術件数をシミュレーションし,手術件数は2020年をピークに緩やかに減少していくと予想している.外科医の業務は手術件数で語られることが多いが,地域の現場では外科医が総合診療医として手術以外の業務も多く担っている.今回の検討は,自治医科大学卒業医師のみが対象であるため全国的な傾向とは若干の相違が見込まれるが,地域外科医療の現状を把握する上で一定の傾向と課題を示していると思われる.手術件数が減少に転じたあとも継続的な外科医確保対策と同時に,外科系総合診療医を育成することが必要である.

図01

V.おわりに
病院規模が小さくなるほど単独施設での手術環境維持は困難である一方,外科医が専門に特化することなく多岐に渡る診療を行うことが求められている現状が明らかとなった.地域外科医療維持のためには外科系総合診療医を養成していく必要がある.

 
利益相反:なし

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文献
1) 神田 健史 , 梶井 英治 , 桃井 真理子 :自治医大からの地域医療に対する提言-自治医大の実績から見えてくる地域医療に求められる医師像.医事新報,4573: 29-33, 2011.
2) 芳賀 香代子 , 松本 邦愛 , 北澤 健文 ,他:外科医師の需給と地域偏在に関する研究.医療マネジメント会誌,12: 134-139, 2011.

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