日外会誌. 122(1): 93-94, 2021
定期学術集会特別企画記録
第120回日本外科学会定期学術集会
特別企画(3)「外科系新専門医制度のあるべきグランドデザイン」
7.多施設データベースを活用した外科専門研修の取り組み
広島大学 消化器・移植外科学 小林 剛 , 大段 秀樹 (2020年8月14日受付) |
キーワード
外科専門医制度, 外科専門研修プログラム, 多施設データベース
I.はじめに
外科医不足が明らかになるなか,新専門医制度が始まり2年が経過し,現状を振り返ることが重要である.広島大学外科専門研修プログラム専攻医の修練状況を振り返るとともに,地域の多施設データベースを活用した外科専門研修の取り組みを考察した.
II.外科専門研修プログラムにおける研修状況
2018年度および2019年度に広島大学外科専門研修プログラムに入会した専攻医28名に対してアンケート調査を行った.1年修了者14名,2年修了者14名のうち,24名から回答を得た.将来希望する専門領域は,消化器12名,乳腺・心臓血管4名ずつ,呼吸器2名であった.18名が将来学位を取得したいと答えた.2年終了時点における手術手技経験数は,消化器360例を筆頭に全ての領域で中央値では目標症例数をクリアしていたが,心臓血管や外傷など未到達者の多い領域があった.術者経験数は中央値144例で,到達目標120例をクリアしたが,4名の未到達者を認めた.内視鏡手術件数は中央値172例で,全専攻医が目標数をクリアしていた.学術活動については中央値21点で,半数が未到達であった.以上の結果から,領域による症例数のばらつきが大きく,到達目標をクリアしづらい領域があることが明らかとなり,研修施設によらない標準プログラムの作成に取りかかった.
III.多施設データベースを活用した外科専門研修
広島臨床腫瘍外科研究グループ(Hiroshima Surgical study group of Clinical Oncology;HiSCO)は,広島県内の医療機関を中心にがんの外科治療や薬物療法に関する臨床試験を行うことで,地域のがん治療の向上に貢献することを目的に,2012年にNPO法人化した.前向き臨床試験を推進するとともに,多施設を包括した臓器別データベースの作成に取り組んできた.これまでに原発性肝がん・胃がん・大腸がんにおける多施設統合データベースを作成し,グループを一つのハイボリュームセンターとみなした臨床研究を行っている.肝がんデータベースでは,8施設から原発性肝がん3,925例の症例データがレトロスペクティブ,およびプロスペクティブに集積され,これまでに複数のテーマにおける症例解析が,複数の施設から発表された.これまでに英文論文3篇が掲載され,2020年学会主題演題には8件が採択された1)
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3).大腸癌データベースでは,2017年からプロスペクティブな集積を開始した.15施設から年間1,200例前後の症例が蓄積され,周術期のデータ解析が可能な状況になっている.胃癌データベースは2018年からプロスペクティブな集積を開始し,14施設から年間700例前後の集積が蓄積されている.
多施設データベースを外科研修に活用する利点は,①専攻医が自ら臨床的疑問の解決に直ちに取りかかることが可能であること,②研修施設の規模にかかわらず学術活動に取り組むことが可能であること,③豊富な症例数による解析で,発表時のインパクトが大きいこと,が挙げられる.外科専攻医が学術活動に取り組むための備えとして継続的に取り組んでいく必要がある.
IV.おわりに
若手外科医が安心して修練を行うことができるためには,外科専門研修プログラムの質向上が欠かせない.プログラムは施設の事情に依存したものではなく,標準化されるべきである.多施設データベースの充実は,外科専攻医が学術活動に取り組む上で財産となり,外科専門医からサブスペシャルティの取得に向けた備えとして重要である.
利益相反:なし
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