日外会誌. 122(1): 90-92, 2021
定期学術集会特別企画記録
第120回日本外科学会定期学術集会
特別企画(3)「外科系新専門医制度のあるべきグランドデザイン」
6.GeneralityとSpecialtyのバランスのとれた外科医の育成を目指して―なんでもできる外科医の魅力をもう一度―
1) 福島県立医科大学 外科研修支援担当 木村 隆1) , 横山 斉2) , 鈴木 眞一3) , 河野 浩二4) , 丸橋 繁5) , 鈴木 弘行6) , 大竹 徹7) , 田中 秀明8) (2020年8月14日受付) |
キーワード
外科専門医プログラム, generality, specialty, サブスペシャルティ, 地域医療
I.はじめに
筆者が進路に悩んでいた20世紀の終わり頃には,外科医は「なんでもできる真の医師」,「現場で最も頼りなる医師」として輝いていた.何を頼まれても「俺に任せておけ」とばかりに仕事をこなしていく先輩方の姿にあこがれて自らも外科医を志した.何でもできることは外科医の大きな魅力だった.時代が変わり,外科の領域でも細分化が進み,それぞれの専門性が高まり,もはや「なんでもできる外科医」になることは難しくなった.現代の若者には外科は守備範囲の広い「なんでもやらされる医師」が働く長時間労働の「ブラック医局」に映り,外科離れの原因とも言われているが,狭い分野の専門家には昔のような外科医の魅力はなく,こちらも外科医が増えない要因の一つと考えられる.外科医の育成には適度なgeneralityとspecialtyのバランスが重要であり,これに配慮した専門医プログラムの構築は外科医を増やすために実施し得る一つの方策と考えられる.本稿では本学のgeneralityとspecialtyのバランスに配慮した外科専門医プログラムの実施経験を報告する.
II.福島県立医科大学外科学部門
福島県立医科大学外科学部門では2016年に講座再編が行われた.専門領域毎に七つの講座および診療科に再編されたが,「外科」という大きな枠組みでの活動を大切にしている.全科が集まるカンファランスを毎週開催したり,当直を全科で協力して行ったりすることで診療科間の連携を図っている.特に教育・研修は「外科」を一つの窓口として実施し,専門の教員(外科研修支援担当,教授1名,講師1名,助教1名)を配置している.外科専門医を目指す専攻医は専門医研修期間の3年間は特定の講座には入局せず,外科学部門に所属して研修を行う.3年間の専門医研修期間に将来の専門領域を決めて卒後6年目にいずれかのサブスペシャルティの講座へ入局する1)2).
III.福島県の医療事情
福島県は全国で3番目に大きな面積を有し,そこに185万人(全国21位)の住民が暮らしている.平成30年度の人口当たりの医師数は全国41位の204.9人/10万人で全国平均より約2割少ない.2次医療圏ごとの人口10万人当たりの医師数には約2倍の開き(県北医療圏277.7対県南医療圏145.6)があり,広い範囲に様々な医療事情の自治体が点在している.また,本学には東日本大震災後の復興を医療の面から支えるという大きな使命がある.最先端の医療を提供しつつ地域医療を再建しなければならない.それを実行するためには,一人ひとりの医師がそれぞれの専門分野でより良い医療を追求するとともに,互いにある程度広い範囲の診療をカバーする必要がある.相互の助け合いなしには医療が成り立たない.generalな診療ができる外科医への期待は依然として大きい.
IV.福島県立医科大学外科専門医プログラム
福島県立医科大学外科専門医プログラムは本学を基幹施設とし,福島県内外の38の連携施設と病院群を形成し運営されている.
研修カリキュラムの基本型では外科研修1年目(卒後3年目)に大学病院で七つの診療科すべてをローテートする.これによって全領域の手術症例を漏れなく経験できるとともに,異なる視点から外科診療に携わることで外科医としての広い視野を育む.また,実際の診療経験や,多くのロールモデルとの接触を通して,選択しようとしているサブスペシャルティ領域が自分の希望に本当に合っているか,医局の雰囲気や人間関係,ワークライフバランスが自分のキャリアパスに適しているかを再確認することができる.外科研修2年目には比較的症例数の多い関連施設でgeneral surgeonとして外科診療経験を重ね,手術症例経験350例,執刀数120例の達成を目的とする.外科研修3年目には徐々にサブスペシャルティにシフトしながら研修を継続する.上記はあくまで基本形である.初年度に卒後臨床研修を行った施設で継続して研修を希望する専攻医や2年目以降に早期にサブスペシャルティへの移行を希望する専攻医など,個々の希望に応じて柔軟に対応している.多くの専攻医は効率よく症例を経験できる基本形で研修を行う.
V.研修実績および専攻医の評価
過去3年間に合計27名が本学のプログラムで研修を開始した.研修2年経過時にはほぼすべての専攻医が手術症例数350例,執刀数120例に達し,領域別の症例もまんべんなく確実に経験している(図1A,B).研修1年および2年終了時に無記名で実施したアンケート調査の結果でもプログラムの満足度は高い(図1C).
VI.おわりに
外科医の養成には地域ごとの事情がある.地方の医学部では地域医療に配慮しつつ高度な医療も追求していかなければならない.専門医プログラムにgeneralな要素を取り込むことによって教育・研修での診療科間の協力が促され,結びつきが強くなった.結果的にそれが外科医の勧誘や診療へも良い影響を及ぼしている.一方で若手外科医の専門分野を極めたいとの思いも強く,研修におけるgeneralityとspecialtyのバランスには苦慮する.本学のシステムも開始当初は様々な異論があったが,実際に研修を受けた専攻医の満足度は高い.毎月すべての診療科の教授,医局長が一堂に会して情報を共有するとともに,細部の見直しを適宜行いながら,徐々に安定した運営となった.より良い教育・研修を目指して,卒前教育の充実や専門研修終了後の生涯にわたるトレーニング環境の整備などにも力を入れ,長期的な視点で継続的な育成が行えるように努めている.
利益相反:なし
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