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日外会誌. 122(1): 83-85, 2021

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(3)「外科系新専門医制度のあるべきグランドデザイン」
4.地域枠医師に対する外科専門研修のあり方―充実した地域医療の実現を目指して―

1) 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 消化器外科学
2) 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 呼吸器・乳腺内分泌外科学
3) 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 心臓血管外科

黒田 新士1) , 吉田 龍一1) , 池田 宏国2) , 岡﨑 幹生2) , 大澤 晋3) , 小谷 恭弘3) , 山根 正修2) , 杉本 誠一郎2) , 菊地 覚次1) , 安井 和也1) , 野田 卓男1) , 笠原 真悟3) , 豊岡 伸一2) , 土井原 博義2) , 藤原 俊義1)

(2020年8月14日受付)



キーワード
新専門医制度, 外科, 地域枠制度, 地域医療

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I.はじめに
新専門医制度の重要なミッションのひとつに地域医療の充実がある.この地域医療を担う専門医として,新専門医制度では新たに総合診療専門医が創設され,外科と並び19の基本領域の専門医のひとつとして設定されているが,総合診療専門医を目指す専攻医の数は毎年200人前後と,国が期待するほどの数には至っていないのが現状である.
地域医療に従事する医師の養成を目的とした制度に地域枠制度がある.われわれは,岡山大学を基幹施設とした専門研修プログラム「岡山大学広域外科専門研修プログラム(岡大プログラム)」のなかに,平成31年度より新たに「地域枠コース」を設立し,外科を目指す地域枠卒業医師が効率的で充実した外科研修と地域研修を行うことができる環境整備を進めている.
本稿では,岡大プログラムの概説の後,「地域枠コース」に焦点を当て,われわれの充実した地域医療の実現に向けた取り組みについて紹介する.

II.岡山大学広域外科専門研修プログラム(岡大プログラム)
岡山大学では2010年より,消化器外科,呼吸器・乳腺内分泌外科,心臓血管外科の外科系3教室が連携して外科マネージメントセンター(外科MC)を稼働し,外科全体として外科を目指す若手研修医の育成・サポートを行う体制を整備してきた.これまで(2020年7月時点)231人の研修医が外科MCに登録しており,うち97人が最初の到達目標である外科専門医を取得している.さらに近年では,消化器外科,呼吸器外科,心臓血管外科,乳腺などのサブスペシャルティ専門医取得者も誕生してきている.
岡大プログラムは,この外科MCを基盤として作成されていることもあり,専攻医側も指導医側も大きな混乱を招くことなく新専門医制度を開始することができている1).研修病院は,基幹施設である岡山大学病院を含む72施設からなり,中国四国地方から近畿地方まで,10府県に拡がる広域な医療圏をカバーしている.岡大プログラムでは,専門研修1・2年目は連携施設A(豊富な症例を有する施設群)で症例経験を積み,3年目に6カ月ずつ基幹施設である岡山大学病院と連携施設B(主に地域医療を担う施設群)で研修を行うコースを「基本コース」としている.このコースの特徴は,専攻医が慣れ親しんだ初期研修病院でそのまま専門研修に移行することを可能としている点であり,これまで3年間に岡大プログラムに採用となった52人の専攻医のうち38人(73%)が初期研修病院で専門研修を開始している.これにより,専攻医は初期研修から専門研修へシームレスに移行することが可能となっており,また,広域プログラムの問題点である転居回数を最小限に抑えることができる点でも,専攻医にとって有意義であろうと考えている.

III.地域枠制度
地域枠制度は,地域医療を担う医師を養成し,医師の地域偏在・診療科偏在の解消に資することを目的とした制度で,平成20年度から全国の医学部で導入が開始されている.奨学金の有無や義務履行年限などの違いにより制度の詳細は多岐にわたるが,令和2年度の医学部募集定員9,330人(全国)のうち1,679人が地域枠(奨学金ありなしすべてを含む)であり,その割合は実に18%に上る.われわれは,地域医療の担い手であるこの地域枠卒業医師が,色々な制限がある中でも充実した専門研修を受けることができる体制作りが重要と考えている.
岡山県の地域枠は,岡山大学と広島大学の医学部に設けられており(広島大学は平成31年度入学をもって終了),平成28年以降,年間4~9名の地域枠卒業医師が誕生している.彼らの多くは,県から6年間の奨学金が貸与されているため,その1.5倍に相当する卒後9年間の義務履行年限を負い,その間,県知事が指定する県内の医療機関での勤務が必要となる.初期臨床研修(2年間)後の7年間のうち通算5年以上を県内の医師不足地域での地域勤務に当てる必要があり,さらに,この地域勤務は前期・後期に分かれ前期は遅くとも卒後4年目までに開始する必要があるため,先述した岡大プログラムの「基本コース」では対応不可であった.そこでわれわれは,外科志望の岡山県地域枠医師が外科へのキャリアパスを諦めることなく,地域研修との両立の中で効率的に外科の専門研修を行えるように,岡山県の担当者と相談しながら個別に研修プログラムを作成する「地域枠コース」を平成31年度より開始した.

IV.地域枠コース
岡大プログラムでは,平成31年度に1名,令和2年度に2名の岡山県地域枠の外科専攻医を採用している.岡大プログラムの「地域枠コース」は,最初の1年目に基幹施設である岡山大学病院と連携施設Bでそれぞれ6カ月ずつ研修を行い,1年間の地域研修を挟んで,2年間の連携施設Aでの研修を行うプログラムである(図1).途中に挟む地域研修の1年間は,専門研修は休止扱いとなるため,計4年で専門研修が修了となることを想定しているが,この地域研修を(数少ない候補施設だが)岡大プログラムの連携施設で行うことが可能な場合は,地域研修と専門研修を重複でき,計3年での研修修了も可能と考えている.いずれにしても,県の担当者と定期的に相談を行いながら,専攻医の希望も踏まえて研修プログラムを作成していくことが重要と考えている.
また,岡大プログラムは10府県に拡がる広域プログラムであるため,岡山県以外の地域枠医師に対してもわれわれのプログラムでの研修が可能か否かを検討するようにしている.先述の通り,地域枠制度の詳細は各都道府県で異なっているため,希望者がいる場合には,その県の担当者と事前に打ち合わせの上,具体的な研修プログラムを作成するようにしている.実際令和2年度には,高知県地域枠の専攻医を1名採用しており,この専攻医は岡大プログラムの「基本コース」での研修が可能であったため,現在高知県内の連携施設Aで研修を開始している.来年度以降も積極的に各県の地域枠医師の受け入れを行っていく予定である.

図01

V.おわりに
われわれは,今後ますますニーズの高まる地域医療の担い手として外科医の存在は非常に重要と考えている.そして,地域枠医師も大切な存在であり,外科医の立場から彼らに地域医療の重要性とやりがいを伝えるとともに,外科医としての十分な知識と技量を効率的に習得する場を提供する体制作りが必要と考え,「地域枠コース」の運用を開始している.このような取り組みにより,岡山県のみならず他県の地域枠医師に対しても,岡大プログラムでの研修が各県の地域医療への貢献につながれば,われわれにとっても非常に有意義なことだと考えている.

 
利益相反:なし

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文献
1) 黒田 新士,吉田 龍一,池田 宏国,他:「新専門医制度の開始により見えてきたその現状と課題」7. 多医療圏にまたがる広域外科専門研修プログラム運営の現状と課題.日外会誌,120(5):601-603,2019.

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