日外会誌. 122(1): 77-79, 2021
定期学術集会特別企画記録
第120回日本外科学会定期学術集会
特別企画(3)「外科系新専門医制度のあるべきグランドデザイン」
2.海外と比較した現行の外科専門医制度の問題点
柏厚生総合病院 外科 小花 彩人 , 小山 基 , 佐藤 好信 , 北村 謙太 , 松村 知憲 , 岩崎 健一 , 薄井 信介 , 小出 紀正 , 苅込 和裕 , 野守 裕明 , 吉田 竜一 , 諏訪 達志 (2020年8月14日受付) |
キーワード
外科専門医, 問題点, 専門医制度
I.はじめに
外科医離れが叫ばれて久しく,外科医を増やす取り組みは様々な形で議論され,様々な取り組みがなされて来たが,大きな効果は出ていない.医学部定員増加にも関わらず,麻酔科,整形外科,精神科の数の上昇とは対照的に20代,30代の外科医の数は減少して来ている1).従って,今までとは違った見方で外科医減少の原因を探索し,その解決策を考える必要があると言えよう.そこでわれわれは外科プログラム自体に問題があるのではと考えた.今回われわれは現行の日本外科プログラムを米国の外科プログラムと比較して問題点と改善点を述べ,外科医減少の根本的な原因とその解決策を論じる.
II.米国の専門医プログラムとの比較から見える日本式外科プログラムの問題点
Ⅰ.手術数と修練内容
日本外科専門医の取得条件として認定試験受験までの約5年間に様々な分野における120例の執刀経験を含む350例の手術経験とある.しかしながら,殆どの執刀経験は消化器外科に偏る事が多く,特に移植外科,外傷外科を学ぶ機会は少ない.対照的に米国外科専門医制度の修練期間は日本と同じく5年でありながら,最低術者経験数は850例と多く,血管外科,外傷外科,移植外科といった様々な分野での研修を必須としており症例の偏りはない.偏りなく全ての分野での十分な研修を修了しなければ外科専門医を名乗ることはできない.
Ⅱ.プログラム毎のバラツキ
米国外科専門医認定施設は専門医管理機構から労働時間,症例数,研修人数等の厳密な管理を受けており,専攻医がどのプログラムを卒業しても同じ質を保った外科専門医が誕生するように整備されている.しかしながら,日本外科専門医認定施設の数は非常に多く,プログラム毎での症例数,教育体制に大きなバラツキがあり,プログラム毎での専門医の質に大きな差があると言わざるを得ない.また,プログラムによっては症例数も少なく,血管吻合,外傷外科を一度も経験したことがなくとも,外科専門医となれてしまう穴のあるプログラムとも言えよう.
Ⅲ.先行き不透明
外科専門医を土台として更に,Subspecialityの専門医資格が続くが,日本の外科修練制度では独り立ちの指標が曖昧である.それに加えて症例数を明示しているプログラムも少なく,将来像を描きづらく先行きが不透明である.米国では外科専門医が手術など術式,適応など自己決定できる独り立ちの指標とされている.また,プログラム毎に症例数や専門医合格者数を明示しており,外科専門医取得後にSubspeciality毎のプログラムを選択し,日本に比べてキャリアパスが描きやすく分かりやすい.
III.日本式外科プログラムの問題点に対する解決策
第一に,外科専門医取得に必要な最低症例数の敷居を上げて,学会として専攻医に担保する症例数を明確にする事である.日本の120例は米国の850例と比べて絶対数が余りにも少ない.またプログラム毎でどんな手術をどの程度経験出来るか明確に専攻医に表示すべきである.
第二に,外科学会認定施設の選別と統合を行い,外科専門医プログラム毎の質のバラツキをなくし,穴のない外科専門医を養成する事が必要だと考える.少ない症例の認定施設では症例の偏りを生じやすく統合して外科専門医プログラムを標榜するべきだろう.
第三に,海外の外科学会と連携して日本で経験できない症例の穴埋めする事も解決策の一つだろう.日本では外傷外科,移植外科になると手術数が少なく修練できる施設も限られる.欧州の外科専攻医は外傷外科を学ぶため南アや豪州へ研修に行き,自国で経験できない外傷の穴を埋めている.2017年より日本外科学会と英国外科学会の提携によるInternational Surgical Training
Programme(ISTP)が開始されたが,人数も少なく英語の敷居も高い.英国以外の外科学会とも提携し,日本で経験できない症例の穴埋めのため海外に臨床留学できるよう学会がサポートする事も,若手にとって魅力的になるだけでなく,穴のない外科医を養成するために一案ではないだろうか.
IV.外科医が増えない根本的な理由
外科医志望が減る一方,精神科,整形外科,麻酔科専攻希望の上昇は著しいが1),これらの専門科と外科との大きな違いは将来像の描きやすさであると考える.これら専門科は専門医,指定医を獲得後フリーランス,開業,勤務医の継続と専門医取得後の選択肢も多く将来設計がしやすい.また,外科と比べて独り立ちするまでの期間も短く,これらが大きな魅力となっていると考える.
外科医不足に対して,ベテラン達による自分たちが若手の頃のように情熱や熱い想いを持とうと言う「精神論的な解決策」は今の若い医師に効果的ではない.なぜならば,時代背景が30年前と全く異なるからである.株価時価総額順位トップ30では平成元年には日本企業が占めていたが,平成30年では一社もなくなり,経済的に落ち目であることは明確である(図1)2).加えて,増え続ける高齢者と税金,減り続ける年金,と医師の手取り収入は今後減少する事が容易に予想され,更に歯止めのかからない少子化は将来の経済規模の縮小を意味する.先行きが暗く不安が残る現在の日本で将来像が描きやすい専門科を選ぶのは当然の流れとも言えよう.
従って外科医不足の1番の問題点は「先行きが見えない将来への不安」であり,これこそが若い医師を外科から遠ざける要因だろう.そこで,将来像が見えやすい整備された外科プログラムを作ることが出来れば,外科選択の1番の障害である不安をある程度解消する事はできるのではないだろうか.
V.おわりに
外科医不足の根本的な原因は「若手医師の将来への不安」でありこれを解決できるようなプログラムの早急な整備が望まれる.
利益相反:なし
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