日外会誌. 122(1): 70-73, 2021
手術のtips and pitfalls
生体肝移植における肝静脈再建
九州大学大学院 消化器・総合外科 吉住 朋晴 , 森 正樹 |
キーワード
肝静脈, 中肝静脈分枝, 下右肝静脈, outflow
I.はじめに
肝移植では肝静脈・門脈・肝動脈・胆道の再建が必要である.わが国で多く施行されている生体肝移植ではドナーから摘出可能な肝臓の大きさが制限されるため,レシピエントに必要な肝臓の大きさに対してグラフトが小さい過小グラフト症候群が問題となる.一方,充分な大きさのグラフトを移植した後でも肝静脈再建のトラブルでグラフトのうっ血をきたし,グラフトが充分に機能せずに過小グラフト症候群様の病態を呈し,治療に難渋することがあった.肝静脈形成,中肝静脈分枝の再建などの工夫により,肝静脈再建におけるトラブルの頻度は減少傾向にある.小児移植では拡大外側区域・左葉グラフト,成人移植では拡大左葉(+尾状葉)グラフトあるいは(拡大)右葉グラフトが主に用いられる.小児では,下大静脈(IVC)トータルクランプ下での三角吻合が肝静脈狭窄の予防に有用である1).拡大左葉グラフトでは中肝静脈と左肝静脈を形成し,グラフト側の吻合口を拡大する方法が一般的である.レシピエント側は肝静脈への吻合ではなく,IVCに吻合することで広い吻合口を確保可能である2).この際にIVCトータルクランプは必ずしも必要としない.中肝静脈を含まない右葉グラフトでは右肝静脈に加えて下右肝静脈およびS5/S8領域を還流する中肝静脈分枝の再建が重要である.下右肝静脈の再建は単独であるいは右肝静脈と一穴を形成後にIVCに直接吻合する3).中肝静脈分枝の再建には,レシピエントから摘出した血管(大伏在静脈,内頸静脈,浅大腿静脈,再開通した臍静脈),レシピエントから摘出した肝内の門脈,cryopreserved graftあるいは人工血管などが用いられる.再建血管は右肝静脈と一穴を形成後にIVCに,あるいは再建血管単独でレシピエント側の中肝静脈に吻合する.われわれは一穴を形成しIVCに直接吻合する方法を好んで用いている.また,ドナーの肝円索(再開通させた臍静脈)により縫しろを作り狭窄を予防している.IVCトータルクランプは必ずしも必要としない.肝静脈再建に用いる糸は成人では5-0,小児では6-0のモノフィラメント糸,針はRB-1を用いると運針が平易である.特に右葉グラフトの吻合では肝静脈再建の術野が深くなるため,血管鉗子を用いた助手の視野展開が重要である.
利益相反:なし
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