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日外会誌. 122(1): 65-69, 2021

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手術のtips and pitfalls

生体肝移植における門脈再建のTips and Pitfalls

1) 国際医療福祉大学三田病院 消化器センター
2) 慶應義塾大学 医学部外科

篠田 昌宏1)2) , 北川 雄光2)



キーワード
生体肝移植, 門脈再建, 自家静脈グラフト, 門脈血栓

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I.はじめに
生体肝移植の門脈再建を成功裏に行うには,血管吻合に関する知識や技術のみならず,レシピエントの術前状態やグラフト情報など肝移植に関するトータルマネジメントが必要である.実際の術野では,流量豊富な健康な血管壁を持つ同口径の門脈を吻合することなどむしろ稀であり,レシピエント側では,著しい門脈圧亢進症と凝固能低下の中,門脈血栓,内膜剥離血管に対応せねばならず,ドナー側では生体ドナーである限り小口径門脈に対応しなければならない.本稿では,門脈吻合手技とともに,実際に移植を成功させるための留意点などについて解説する.
門脈吻合は,筆者らは門脈壁の外翻を意識しながら6-0(または5-0)の非吸収性モノフィラメント糸(hexafluoropropylene-VDF surure)を用いて2点支持連続縫合を行っている.後壁をintraluminal,前壁をover and overとして行っている(図1).より確実な内膜同士の密着をさせるため“rollover-sleeve technique”を用いることもある(図21).生体肝移植では,グラフト側門脈は必ず右枝または左枝である一方レシピエント側は本幹となっている可能性があり,口径差が著しいこともしばしばであるが,2点支持法で両端の支持糸にしっかりと緊張をかけておくことで口径差に対応できると考えている.
吻合手技以外に留意しておく点は多数ある(図3).待機的に予定できる生体肝移植では,術前ダイナミックCTなどで門脈,上腸間膜静脈内の血栓の有無を把握しなければならない.肝腎症候群などの腎機能に配慮を要する症例も多いが,比較的直前の情報を収集しておきたい.門脈血栓を有する場合は,下腸間膜静脈など門脈系~体循環系のシャントを準備して臨む2).長時間の体外循環は慎むべきだが,肝門の門脈操作は門脈圧の減圧で格段にやりやすくなり,門脈壁をeversionして門脈内の血栓を摘除することも可能となる(図43).門脈本幹の血栓摘除が困難な場合,上腸間膜静脈,脾静脈合流部まで門脈本幹を切除し同部に自家静脈グラフトをconduitとして立てておくと,グラフト側門脈の短い生体肝移植においてもput in後の門脈吻合が容易となる(図5).Put inは,最初に吻合する肝静脈の位置で肝臓の存在する頭尾側位置が決定し,門脈吻合の縦軸距離に影響を与えることなどから,筆者らはグラフト肝静脈をレシピエント肝静脈orificeではなく下大静脈に端側吻合し頭尾側方向にグラフト位置を調節できるようにしている.

図01図02図03図04図05

 
利益相反:なし

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文献
1) Mehrabi A, Fonouni H, Müller SA, et al.: Current concepts in transplant surgery:liver transplantation today. Langenbecks Arch Surg, 393(3): 245-260, 2008.
2) Washburn WK, Lewis WD, Jenkins RL: Percutaneous venovenous bypass in orthotopic liver transplantation. Liver Transpl Surg, 1(6): 377-382, 1995.
3) Seu P, Shackleton CR, Shaked A, et al.: Improved results of liver transplantation in patients with portal vein thrombosis. Arch Surg, 131(8): 840-844, 1996.

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