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日外会誌. 121(6): 659-662, 2020

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(1)「夢を実現するためのキャリアパス・教育システム」 
5.本学における卒前手術手技教育システム

1) 横浜市立大学附属病院 シミュレーションセンター
2) 横浜市立大学 消化器・腫瘍外科学

秋山 浩利1)2) , 小坂 隆司2) , 小澤 真由美2) , 石部 敦士2) , 渡邉 純2) , 熊本 宜文2) , 松山 隆生2) , 國崎 主税2) , 遠藤 格2)

(2020年8月13日受付)



キーワード
卒前外科教育, 外科基本手技

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I.はじめに
内視鏡外科の普及に伴い,手術ビデオを用いた講習会や手術手技ハンズオンセミナーなど外科教育は大きな変化を遂げ,卒後のみならず卒前教育における外科学の授業において手術ビデオで学ぶ機会は増加した.外科手術手技においてもOSCE(Objective Structured Clinical Examination)が導入され臨床実習前に学ぶことが出来るようになった.しかし日本外科学会の会員数は減少傾向にあり,2020年度の外科専攻医数は828人(9.1%)にとどまっている1).本学では医学部入学後から初期臨床研修まで継続して外科手術手技教育を目的として手術手技講習会「外科寺子屋」開催している.本講習会の外科進路希望者増加に関する効果や講習会の問題点と,今後の卒前外科教育の在り方について考察した.

II.本邦における卒前手術手技教育の変遷
本邦における卒前手術手技教育の変遷を図1に示す.2006年に医学部でOSCEが正式導入されたが,「基本的臨床手技」として正式に実習が始まり,実技試験も行われるようになった.2015年より臨床実習開始前に必要ないわゆる「必修」ではなくなり,「臨床実習中に学習し卒業時に身につけておくべき手技」となった.2020年よりpccOSCE(臨床実習終了後OSCE)が正式に導入予定であるが,現状では「外科系基本手技」の実習内容や到達目標・評価の基準は各大学に任せられている.しかしながら縫合や結紮のような基本的な手技においても,1学年約100名の学生に同時に短時間で指導することは困難であり,今後の抜本的な改革が必要である.

図01

III.本学における卒前外科手術講習会
本学では2007年にシミュレーションセンターが開設され,同年9月より全医学生・初期研修医を対象に手術手技講習会を毎月1回(年10回,7月8月は休講)定期的に開催している.講習は継続性を持たせることを重視して手術手技習得度別にプログラムを作成し,結紮・縫合から複雑な創処置や縫合,腸管吻合,鏡視下手術,血管吻合などをブタの皮膚・腸管・血管,VRシミュレーターを用いて指導している.2009年より講習会の名前を「外科寺子屋」として参加者の記録や卒後の進路の調査を行ってきた.また学習者が継続して参加するように,基本的な手術手技だけではなく,腹腔鏡手技や内視鏡検査や腹部エコーなどもプログラムに加えた.個人の能力や経験に差があるため,個々の到達度に応じて講習内容を調整し,次回への目標を意識させ継続して受講するように工夫している.2020年2月で「外科寺子屋」100回目を迎えた.講習会に参加した医学生は10年間で延べ1,357人(1回平均14人)であった(図2).

図02

IV.本学講習会参加者の進路
2010年より講習会を10回以上定期的に受講した医学生は36人で,このうち29人が初期研修を修了した.この29人の進路は外科13人(44.8%),泌尿器科4人,脳外科2人,産婦人科1名,その他9名で,いわゆる外科系全体では69.0%あった(図3).本邦では医学生の9割以上は卒業前に将来進みたい診療科を決定しているとされている2).本学でも毎年新入生に進路希望のアンケート調査を行っているが,外科は毎年25から30%と内科に次いで高く,6年生では約10%前後であり外科専攻数の割合と一致している.本講習会が医学生の専攻にどのような影響を与えているかの評価は出来ないが,入学後より早期から外科手技を学ぶことはモチベーションの維持につながる可能性があると考えられる.また外科医や外科専攻医,研修医と定期的に接することも外科進路希望維持に重要と思われた.さらに講習会参加の継続性を持たせることにより,外科手術手技に興味をもち,外科系を選択する受講者の割合が増えた可能性が示唆された.

図03

V.講習会の問題点と今後の展望
本講習会のように毎月定期的に開催するためには,充実したプログラムと十分な講師数が必要である.プログラムについては医学生はOff-the-job trainingに限られるため限界はあるものの,当センターのVRシミュレーターや縫合用の豚皮などの消耗品を用いることにより学生が興味をもって継続的に参加する内容を行うことは可能である.しかしながら継続的に毎月外科医をボランティアで参加してもらうことは困難であり,現状での最大の問題点である.指導者不足を解消するために,上級者が初級者を指導するシステムも取り入れており,さらに「外科寺子屋」卒業生が指導医クラスになり,講師として参加してくれることを期待して講習会を継続している.

VI.おわりに
医学部入学時および在学中に抱いた外科医への夢を現実にするために,卒前の手術手技講習会に定期的に参加することは,受講生のモチベーションを高め外科医不足の対策としても有効であると考えられた.今後は卒前から初期臨床研修医,外科専攻医へのシームレスなプログラムの構築が望まれる.

 
利益相反:なし

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文献
1) 令和2年度専攻医募集の結果等について 令和元年度第4回 医道審議会 医師分科会 医師専門研修部会資料(令和2年3月13日),2020.
2) 和佐 勝史,河盛 段,渡部 健二:卒前・卒後教育の動向から見た外科医の育成戦略.日外会誌,120(6): 704-706, 2019.

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