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日外会誌. 121(6): 656-658, 2020

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(1)「夢を実現するためのキャリアパス・教育システム」 
4.学生に教える「術前評価」―問題解決型実習(Project Based Learning;PrjBL)としての手術計画立案実習―

慶應義塾大学医学部 外科学教室(一般・消化器)

堀 周太郎 , 中野 容 , 松井 信平 , 田中 真之 , 松田 愉 , 永山 愛子 , 清島 亮 , 関 朋子 , 茂田 浩平 , 入野 誠之 , 松原 健太郎 , 高橋 麻衣子 , 八木 洋 , 阿部 雄太 , 林田 哲 , 岡林 剛史 , 北郷 実 , 川久保 博文 , 尾原 秀明 , 和田 則仁 , 北川 雄光

(2020年8月13日受付)



キーワード
外科教育, 医学部生, PBL, 手術計画, 臨床実習

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I.はじめに
外科医を志す若手の減少が問題化した昨今1),卒前教育として,医学生に対して外科の魅力を啓蒙する重要性が増している.その一環として,外科の魅力を正しく伝えるための,新しい外科教育方略の確立が望まれる.
従来,本邦における外科学教育では,術式の理解や外科手技の習得に重きが置かれてきた.一方で,外科学の知識の総合的な理解に基づく,外科診療の意思決定プロセスについて学ぶ機会は,十分に設けられていなかった.
外科の臨床において,手術計画の立案は,外科知識に基づく意思決定プロセスの代表例であり,教育の題材にも適している.しかし,手術計画立案は多分に実務を通じて習得されるため,これを限られた実習期間内で体系的に伝授する方略が本邦・海外ともに存在しなかった.
そこでわれわれは術前評価を講義形式で教授せず,症例の基本情報のみを提示し,指導者の補助のもとに術前の情報収集を行い,術式の決定,予想される合併症と対策,手術以外の代替治療との成績比較までの一連の意思決定プロセスを主体的に体験し,その結果を指導者の前で「模擬術前カンファレンス」として発表する「課題解決型実習(Project Based Learning)による手術計画立案実習(手術計画PBL)」を教育方略として考案した.

II.手術計画PBLの実際
われわれは医学部5年生を対象として2週間の臨床実習を実施しており,手術計画PBLもその期間中に実施している.
以下に手術計画PBLの実施手順を示す(図1).
① 実習開始前レクチャー
手術計画策定の重要性の説明に続き,診断,手術の適応,術式の選択,リスク評価と対策など,手術計画の立案に必要な判断事項の基本概念について小講義を行う.
② 検討症例の提示
指導者は評価を行う患者(実症例)の基本情報のみ学生に提示する.提示する症例は,実習の第2週の後半に実施される手術症例から選択する.なお,2020年4月~7月はCOVID-19の流行に対応し,画像データを含む模擬症例を提示することで,実習をオンラインで継続している.
③ 学生による症例検討・手術計画策定
提示された症例について学生達は情報を収集し,術前計画策定のプロセスを自ら実施する.学生は医学情報として,教科書,各種規約,ガイドライン,オープンソースを参照する.指導者は検討期間中に積極的な介入を行わない.学生からの疑問や課題については直接の質問,電話,メール,SNS等により随時受け付け,ヒントや資料の提供で応じる.
④ 模擬術前カンファレンス
学生達による症例検討期間を経て,実習期間の終盤に検討内容を「模擬症例カンファレンス」として指導者の前で発表する.発表形式は実臨床における術前カンファレンスに準じ,病歴・手術適応・術式選択・他治療との比較・リスク評価と対策・追加治療の適否を網羅した症例提示を行う.発表の中で詳細な術前画像提示と解説を求める.

図01

III.教育効果の検討
当教室では,手術計画PBLを2018年4月から2020年7月にかけて計45グループ,278名に対して実施した.なお,2020年4月以後に実習を行った8グループ,45名はCOVID-19の流行をうけてオンラインにて実施した.
検討症例の内訳は食道癌24%,胃癌24%,膵頭部癌18%,結腸癌13%,直腸癌11%,肝細胞癌5%,他5%であった.模擬術前カンファレンスの発表時間中央値は19分で,実習後アンケート(回答率96%)では,実習期間に受講した全11個の講義・手技実習のうち,手術計画PBLを有意義だった上位三つに挙げた学生は53%であった.
つぎに手術計画PBLによる意識の変容を前向きに評価するため,実習開始時と終了時に,医学生が外科実習で重視する項目(術前・術中・術後・コミュニケーションの4分野,計16項目)についてアンケートを実施した.実習修了時には病変の解剖,手術適応やリスク評価等の手術計画PBLで検討した項目に対する重要性の認識が増す一方で,術式や手技など,手術内容に対する重要性の認識が減少した(図2).

図02

IV.考察
今回われわれが提案した手術計画PBLは,従来困難だった外科疾患の理解に基づいた治療方針決定プロセスの理解を,学生のアクティブラーニングにより達成するものである.既存の臨床情報を活用するため,教材作成の負担も最小限ですむ利点がある.また,実症例を用いた場合は学生にとって臨場感を伴う一方,患者を模擬症例ケースに変更すれば,COVID-19流行下でオンライン授業へ切り替えても同様の教育効果が期待できる.
新しい教育方略として始めた手術計画PBLだが,その確立には提示症例による実習グループ間の格差,教育方略としての有効性,また当教育方略のみに偏重しすぎることの是非など,検討・検証すべき課題が残る.
これらを客観的に評価するには,難易度を均てん化したモデルケースを用いた前向き介入試験を検討する必要がある.

V.おわりに
外科医の思考プロセスを理解し,実践する教育方略として,医学生を対象とした手術計画PBLは 有用な手段となりうる.

 
利益相反
奨学(奨励)寄附金:平成31年度科学研究費助成事業若手研究(課題番号19K14349)

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文献
1) 「平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況(厚生労働省)」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/18/dl/kekka-1.pdf

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