日外会誌. 121(6): 643-646, 2020
特別寄稿
15th Annual Academic Surgical Congress 参加記
沖縄県立中部病院 外科 桂 守弘 |
キーワード
Annual Academic Congress(ASC), Society of University surgeon(SUS), Warm fresh whole blood, trauma, blood transfusion
I.はじめに
この度,日本外科学会国際委員会の推薦を得て,15th Annual Academic Surgical Congress(ASC)にて口演発表をする機会を頂きました.大変光栄なことに,Top scored Japan Surgical Society(JSS)abstract and the Society of University surgeon(SUS)-JSS Abstract WinnerというAwardをいただき,感謝の意を込めて,日本からの参加者を代表し謹んでご報告させていただきます.
II.15th Annual Academic Surgical Congress
15th ASCは,2020年2月4日から6日までの3日間,米国Florida州OrlandoにあるHilton Orlando Buena Vista Palaceにて開催されました.ASCは,Association for Academic Surgery(AAS)という医学生・研修医・若手指導医が中心メンバーの学会と,日本外科学会の提携学会でありますSUSという中堅指導医以上が中心メンバーの学会が,15年ほど前から合同で開催されています.合同で開催することになった経緯は,それぞれの学会だけでの開催では採算が取れるほど参加者がいなかったためと言われており,そのため現在でもASCのプログラムは,特に若手の外科医が興味のあるような内容が多く盛り込まれる構成になっています.15thASCでは,将来アカデミックな分野で外科医として活躍することを目標とした若手外科医向けの講演も多く組み入れられていました.Academic surgeonとしての目標の立て方,Burnoutしない予防法,JournalのeditorにNoと言わせないための方法論,professionalismなど,キャリアパスを自分で切り拓いていかないといけない米国の若手外科医が聞きたくなるようなsessionが多数用意されており,いかにも米国らしい学会という印象でした.
一般演題の発表者は,レジデント,フェロー,若手指導医など比較的若手外科医が中心で,それに加え医学生も多く発表していました.座長は中堅指導医クラスが担当されているようでした.Sessionとしては,ほぼ全てがOral presentationとなっており,大きく分けてFull oral presentation(発表8分,質疑4分)とQuick shot presentation(発表3分,質疑2分)の2種類の発表形式で行われています.Full oral presentationは発表スライドの枚数制限はありませんが,Quick shot presentationでは発表スライドは5枚以下に限定されており,限られた発表スライドと発表時間で自分の研究概要を端的にpresentationする能力が求められ,若手外科医にとって非常に良い学会発表のトレーニングの場となっているようでした.採択率は90%程度と非常に高く,米国では若手外科医の登竜門として位置づけられているようですが,発表内容を聞いていると,多くの演題がoriginal scientific paperを目指しているような研究発表内容となっており,米国における臨床研究の裾野の広さを感じました.日本の外科系学会では,Surgical oncology領域と内視鏡手術手技に関する発表が多いですが,ASCのプログラムではBasic science,良性疾患を含めたGeneral surgeryやAcute Care Surgery,Perioperative management,Trauma and Surgical Critical Care,Surgical QualityやCost Effectiveness Research,Surgical Education Researchなど様々な領域の研究発表がバランスよく配置されているのが印象的でした.
III.発表
Clinical/Outcomes : Trauma/Critical Care Oral sessionにて8分の発表と,4分間の質疑応答の機会をいただきました.Session開始前に私だけ座長から呼ばれ,発表順が最後に予定されているが最初に発表しないかと問われましたが,心の準備が全くできておらず予定通り最後でお願いしますと答えてしまいました.私の発表に先立ち,座長よりわざわざSUS-JSS Abstract Winnerであるとご紹介いただきました.私が発表した内容は,「The use of warm fresh whole blood transfusion in the austere setting : A civilian trauma experience」と題しまして,現在外傷領域でHot topicである全血輸血療法に着眼し,成分輸血製剤の貯蓄量が十分でない離島地域のreal worldで行われてきた新鮮全血輸血療法(いわゆる生血輸血療法)のpractice patternとその安全性・有効性について報告しました1).医療資源の限られた離島僻地領域で慣習的に行われてきた新鮮全血輸血療法が,適切な体制を構築すれば安全に施行可能であり,早期使用により成分輸血製剤(特に血小板製剤)の使用量を減らせる可能性があることを示しました.医療資源の限られた状況で患者アウトカムを最適化するための国際的な議論に貢献したいと考え,ASC発表後に論文化して報告することもできました1).
米国学会のOral sessionと言えば,大きなメイン会場に大勢集まって行われ,質疑応答では質問が次々と発せられて厳しい状況になるという印象を抱いていましたが,ASCでは日本の学会の一般口演演題と同様に,各Oral sessionがコンパクトな小さな部屋に分かれて行われ,聴衆も数十人という非常にアットホームな雰囲気で,日本からでも発表しやすい環境であると感じました.質疑応答では,会場と座長から三つほど質問をいただきましたが,質問者との距離も近く,私の拙い英語でも初めて質疑応答がうまく乗り切れたと感じられました.Session終了後に,座長から発表者全員へ評価表が配られますが(図1),それを拝見してASCは発表者にとても優しい学会で,日本の若手~中堅外科医にはとても良い国際発表の機会となる学会であると感じました.
最終日には,メイン会場でAAS and SUS Research Awards sessionが行われます.様々なAwardsが用意されており,米国内外から多くの参加者が一人ひとり壇上に上がって表彰されます.大変光栄なことに,私もJSS国際委員会委員長の大木隆生先生と共にBest SUS-JSS Abstract Winner としてSUS President Dr. Gregory Kennedyより盾をいただき表彰していただきました(図2).
IV.懇親会
会期2日目の夜には,大木隆生先生のお声かけで毎年恒例の日本人懇親会が開催され参加させていただきました.JSS国際委員会からの推薦を得てのASC発表者8名に加え,東京慈恵会医科大学外科学講座・消化器外科の矢永勝彦教授(当時)をはじめとする慈恵会医科大学の先生方とご一緒でき,おいしいアメリカンステーキを食しながら多岐にわたるお話で盛り上がりました(図3).
V.おわりに
この度,JSS国際委員会ならびにSUS関係各位のご厚意により,このような大変貴重な発表の機会をいただいたことに改めて御礼申し上げます.われわれは地方のLow volume centerでありますが,その弱点克服のために海外での機会を活用するよう心がけています2).現場で悩みながら行っている診療を,現場の方々からの協力を得て世界へ発信でき,Originalityのある発表として評価していただけたことをとてもうれしく思います.ASCは発表者に優しく国際学会での発表の良いトレーニング機会となり得るため,ぜひ若手外科医や市中病院の先生方にも一度応募されてみることをお勧めしたいと思います.
利益相反:なし
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