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日外会誌. 121(6): 572-578, 2020

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特集

ECMO,補助循環装置の進歩

2.院内,院外心停止に対する体外循環を用いた心肺蘇生(ECPR:extracorporeal cardiopulmonary resuscitation)

千葉大学大学院医学研究院 救急集中治療医学

安部 隆三 , 東 晶子 , 中田 孝明

内容要旨
近年,ECMOを用いた心肺蘇生(ECPR:extracorporeal cardiopulmonary resuscitation)の件数が増加している.ECPR適応基準は未確立だが,通常の救命処置に反応しない目撃された心停止で,心電図波形が心室細動の症例を対象とした報告が多い.
院内心停止(IHCA:in-hospital cardiac arrest)の場合,心停止から循環再開までの時間,すなわちLow-flow duration(LFD)が比較的短いことが期待できるため,ECPR適応となる頻度は高い.短いLFDでのECPRには,院内急変対応システム(RRS:rapid response system)の確立が必須であり,LFDが短いほど,生命転帰,神経学的転帰の良好率が高い.
院外心停止(OHCA:out-of-hospital cardiac arrest)の場合,IHCAに比してLFDが長くなる傾向にあるため,適応判断が一段と重要である.OHCAに対する短いLFDでのECPR導入のためには,病院前での活動も考慮する必要がある.
多職種から成るECMOチームが,臨床のみならず教育などの役割を果たすことが,良好な転帰や低い合併症発生率に関係するため,ECMOチーム構築は必須である.さらに,ECPR症例の救命のためには,VADや心移植を見据えた治療戦略が必要となる場合もあるため,複数診療科による集学的治療を行える協調体制が重要である.

キーワード
院外心停止, 院内心停止, 低灌流時間, rapid response system

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I.はじめに
突然発症する心停止は,心肺蘇生法の普及によっても依然として先進国の主要な死因の一つである.米国では年間約570,000人が突然の心停止を発症しており,このうち37%は院内心停止(IHCA:in-hospital cardiac arrest),63%は院外心停止(OHCA:out-of-hospital cardiac arrest)であったと報告されている1).心停止患者の救命率,特に神経学的に良好な状態での救命率は低く,IHCAで15%,OHCAにおいては5~10%である2).通常の救命処置によっても心拍再開が得られない難治性心停止においては,さらに転帰が不良となる.
近年,V-A ECMO(veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation)を用いた心肺蘇生(ECPR:extracorporeal cardiopulmonary resuscitation)の施行件数が増加している3).米国心臓協会(AHA:American Heart Association)の心肺蘇生ガイドラインにおいては,治療可能な原因が疑われ,従来の心肺蘇生に反応しない一部の心停止患者に対して迅速に実施できる場合には考慮してもよい,というClassⅡbの推奨がなされているが2),本邦においては,米国や欧州のガイドラインに記載されるより前からECPRが広く行われており4),当院でもECMO症例の半数をECPRが占めている.
本稿では,ECPRの適応や有効性に関して,IHCAとOHCAに分けて解説する.

II.ECPRの実際
ECPRの適応基準はまだ確立されていないが,一次救命処置(BLS:basic life support),および二次救命処置(ALS:advanced life support)に反応しない心停止のうち,発症を目撃された心停止で,心電図波形が心室細動の症例を対象とした報告が多い4).当科では,院内,院外を問わず発症を目撃された心停止症例において,心電図波形が心静止以外の場合に,ECPR導入を考慮している(表1).
心停止患者の転帰には,心停止発症からBLS開始までの時間,すなわちNo-flow duration(NFD)と,心停止から循環再開までの時間,すなわちLow-flow duration(LFD)が大きく影響することが知られており5),これらが長くなると当然生命転帰,神経学的転帰が不良となるため,ALSによって心拍再開が得られない場合には,機を逸することなくECPR導入を決断する必要がある.
ECPR導入には,通常,超音波ガイド下に大腿動静脈を穿刺し,セルジンガー法によって経皮的に脱血カニュレ,送血カニュレを挿入する.経皮的に導入されたV-A ECMOは,PCPS(percutaneous cardiopulmonary support:経皮的心肺補助)とも呼ばれる.大腿静脈から挿入し先端を右房付近に留置した脱血カニュレから遠心ポンプを用いて脱血し,人工肺を通過して酸素化された血液を,大腿動脈から挿入した送血カニュレで動脈系に送血する形で,体外循環を確立する(図1).カニュレ挿入手技は,可能な限りX線透視下でガイドワイヤーやカニュレの位置を確認しながら行うべきであり,それが不可能な状況でも,ポータブルX線撮影や超音波で確認しながら行う.経皮的に挿入が困難な場合は,外科的アプローチでの挿入を要することもある.いずれにしても,カニュレーションと併行してECMO回路のプライミングを行い,遅滞なく体外循環を開始する.

図01表01

III.IHCAに対するECPR
IHCAは,入院患者や外来患者のみならず,医療従事者も含めた院内にいる全ての人に発症し得る. IHCAは,OHCAと比較すると表2に示すような特徴があるが6),最大の相違はBLS,およびALS開始までの時間が短い傾向にあることである.つまりIHCAでは,OHCAに比しNFDが短いことが多く,また心拍再開が得られない場合にも比較的短いLFDでの循環再開が期待できることから,ECPR適応となる頻度は高い6).しかし一方で,通常のALSによって心拍再開し得る症例に対して,早まってECPRを導入することのないよう,適切な判断が求められる.
IHCAに対するECPRの有効性は,2008年のChenらの報告を機に注目された.10分以上の心肺蘇生によっても心拍再開が得られない心原性IHCA症例を対象に,ECPRを導入した群と従来の心肺蘇生を継続した群とを比較した観察研究において,平均40分間の心肺蘇生後に59人に対してECPRが導入され,生存退院率,1年生存率ともにECPR群の方が有意に高かった7).その後の報告も同様の結果を示しているが,現在のところrandomized studyは報告されていない.
外科症例における予期せぬ心停止の原因は多岐にわたるが,気道のトラブルや大量出血がなければ,通常は急性心筋梗塞やそれに伴う致死的不整脈,または肺血栓塞栓症を念頭に対応する.当科におけるECPR除外基準は表1の通りであるが,周術期患者の場合,年齢や悪性疾患の存在は考慮の上で手術を決断していることがほとんどなので,術中,術後の予期せぬ心停止の際には,必ずしもこの限りではない8)

表02

IV.Rapid Response System(RRS)
近年,IHCA全体の転帰は改善傾向にあり,これには院内急変対応システム(RRS:rapid response system)の進歩が寄与している6).RRSの最大の目的は,状態の悪化に早期に対応して心停止を未然に防ぐことにあり,当院における検討においても,RRSとしてのMET(medical emergency team)導入前後で,IHCA,および救命処置を要する急変の発生頻度が有意に減少していた9).心停止の予防を主目的とするRRSと,心停止後に必要となるECPRとは,別の体制で運用されていることも多いが,短いLFDでECPRを導入して良好な生命転帰,神経学的転帰を得るためには,RRSとECPRが同じチームで,または一体となって活動することが理に叶っており,その有効性も報告されている10).当院のMETは救急科・集中治療部医師,ICU看護師,ICU臨床工学技士で構成され,その全員がECPRのトレーニングを受けているため,METがECPRの適応を判断し導入手技を行っている.当院における15年間のECPR症例を検討したところ,LFDは経時的に有意に短縮しており,METがECPRを行うシステムが有効に機能していると考えられる11)
ECPR症例においてLFDが短いほど転帰が良いことは,繰り返し報告されている12).当院における117例のIHCAに対するECPR症例の検討においても,LFDが短いほど,90日生存率,神経学的転帰良好率が高いという結果であった11).しかし,LFDが何分までならECPRの適応として妥当と判断されるのかについては,まだ結論が出ていない.

V.OHCAに対するECPR
OHCAの救命率は改善されておらず,新たな治療法が期待されているが,最近の報告では,アドレナリン投与も無効である可能性が示唆されている13).一方ECPRは,限定された対象における報告ではあるが有効性が報告され,メタアナリシスでも通常の心肺蘇生に比して高い救命率を示しており14),今後の研究に期待が高まっている.しかし現時点で最も症例数の多い観察研究においては(OHCA 13,191例,うちECPR 525例),通常の蘇生のみを受けた群と比較して救命率に有意差は認められなかった15)
OHCAの場合,IHCAに比して目撃者やbystander CPRのない症例の頻度が高いため(表2),適応となる症例の選択がより一層重要である.心停止の心電図波形がショック適応波形(心室細動,無脈性心室頻拍)であることや,蘇生中に一過性の心拍再開を認めることが,OHCAのECPR症例の生存退院に関係することが報告されている15).さらに,病院到着前のECPR導入が,生存に関係する独立した因子であることを示す報告もあり15),やはり,短いLFDでのECPR導入が良好な転帰の鍵となることを示唆している.
当科では,OHCAのLFDを短縮するための取り組みとして,千葉市消防局の協力のもと,ECPRを考慮した救急隊活動プロトコールを設定している(表3).具体的には,当院から概ね半径10km以内の地域で発症した,目撃された心停止の場合(覚知から病院到着までの予想時間が概ね30分程度),出動した救急隊は,現場到着前に当科ホットラインに一報を入れ,同時に院内ではECPRの準備を開始する.救急救命士による静脈路確保やアドレナリン投与,気管挿管などは極力行わず,また電気ショック適応波形の場合でも,救急隊員による電気ショックは2回までに制限して,絶え間ないBLSを確実に実行しながら迅速に搬送することを優先,これによってLFDの短縮を企図している.

表03

VI.ECMOチーム
ECMO症例の転帰は,経験症例数の多い病院ほど良好であり16),また複数の専門職から成るECMOチームが常時対応可能であることが,良好な転帰や低い合併症発生率に関係することが報告されている17).当院では,救急科・集中治療部医師,ICU/ER看護師,ICU臨床工学技士を中心としたECMOチームを結成し,臨床における適応判断や導入手技,トラブル対処などの役割のみならず,マニュアルや器材の整備,スタッフ教育などの役割を果たしている18).ECPRに関しては,ECPR導入に必要な器材を一括して持ち運べるバッグを整備したり,医師,看護師に対してECMO回路プライミングトレーニングやECPR導入シミュレーショントレーニングを定期的に行ったりしている.当院におけるECMOチーム発足前後の比較では,ECMO症例の救命率に有意差は認められなかったが,ECMO症例数の増加がみられ,ECMO施行後の生存退院症例数も増加していた18).教育を含めた活動の結果として,ECMOが必要な症例に対して迷いなく導入されるようになった結果であると考えられる.

VII.ECPRを良好な転帰につなげるための治療戦略
ECPRとそれに引き続く原因治療の結果として,短期間で回復が得られECMOを離脱できる症例が存在する一方,心機能の回復に長い時間がかかったり,回復が得られなかったりする症例も存在する.ECPRでは,前述の通り,迅速に導入可能な大腿動静脈からの経皮的アクセスが用いられることが多いが,大腿動脈からの逆行性の送血により後負荷が増大すること,左室のunloadingが出来ないことなどの欠点があるため,心機能回復までの,または心移植や移植適応判断までのbridgeとしての長期管理には適していない19).この問題を解決するために,VAD(ventricular assist device)による補助を要する症例が存在し,最近は,経皮的VADとしてのポンプカテーテル使用症例が増加している.これらの補助については他項に詳述されるが,いずれにしても,循環器内科,心臓血管外科,救急科,集中治療部の,緊密な連携と協調体制が,ECPR症例の救命に大きく寄与することは間違いない20)

VIII.おわりに
ECPRは,通常の蘇生処置に反応しない難治性心停止に対して有効である可能性がある.IHCAの場合には,RRSによる迅速な対応に引き続いて,短いLFDでのECPR導入が,良好な転帰に寄与する.OHCAに対して短いLFDでECPRを実現するためには,適切な適応判断とともに,病院前での活動も考慮する必要がある.
また,ECPRの迅速な導入と心停止の原因治療だけでなく,VADや心移植を見据えた治療戦略が必要となる場合もあるため,複数診療科による集学的治療を行える協調体制が重要である.

 
利益相反:なし

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文献
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