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日外会誌. 121(6): 567-568, 2020

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理想の男女共同参画を目指して

ドロップアウトして見えてきたもの

健和会大手町病院 外科

奥川 郁

内容要旨
日本外科学会において男女共同参画を進めていくために,①外科専門医修練中に休止,中断した場合の具体策を外科専門研修プログラム内に明記すること②外科学会代議員の女性登用を増やすことを希望する.

キーワード
男女共同参画, 外科専門研修プログラム, 外科学会代議員

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I.はじめに
消化器外科医として働いてきた26年目に退職し,家族と共に過ごす時間を持った.その後の出身医局から離れての就職活動は予想外に厳しかったが,26年間続けてきたという自負と消化器外科専門医,指導医の資格のおかげで外科医としてまた働いている.続けること,資格を持つことの大事さを実感した今の時点での男女共同参画について述べさせていただく.

II.外科専門研修プログラムについて
女性の出産に適した年齢は生物学的に決まっており,出産,育児の時期は外科修練時期と重なりやすい.女性医師が外科を選択するのをためらうのも無理はなく,外科修練を余儀なく中断されるケースも少なからず見てきた.外科修練で専門医レベルの技量が取得できれば,周囲に必要とされるようになる.必要とされることで外科医を続けていくモチベーションが保てると同時に,短時間勤務など勤務体制の選択肢が増える可能性がある.専門医を目指す間口を広げることによって,外科医の底辺を広げることができるだろう.
新専門医制度が始まったが,それぞれのプログラムには休止した場合の具体的な策は示されているだろうか.途中で中断した場合には新規のプログラムを始めるのだろうか.転居した場合などに使えるように異なるプログラム間で相互利用できるような単位制などは実現できないだろうか.研修プログラム途中で中断した場合のレスキューをいくつかの具体策で示して欲しい.一本道だけでなく,立ち止まり遠回りしつつも外科医に向かっていくことができる道筋を明記することで女性だけでなく男性も外科医を目指しやすくならないだろうか.

III.外科学会代議員数をみて考えること
医師自体が社会的資源とみなされる現在,男女共同参画の議論に女性医師活用が取り上げられやすい.今年の外科学会役員の25名中女性外科医は2名,代議員では総数338名中女性は3名と少なく,男女共同参画が進んでいるとは云えない現状である.
今の外科学会における男女共同参画は,主に男性外科医によって行われていると感じる.共に考える手だてとして意思決定機関に女性外科医をもっと増やすことが最低限必要なことだと考える.
若い女性外科医の代議員が誕生した.さらに進めていくために欠員枠(計11名)に女性外科医の登用を検討してはどうだろうか.

IV.男女共同参画を自分の問題として捉えるために
男性外科医が普通に家庭を持ちながら仕事に「ほぼ全力」を注げる一方で,女性外科医は自身のGenderがらみの価値観に囚われている.男性外科医が「女性外科医のために努力する,考えてあげる」のではなく,共に自分の問題として考えていく時代へと変えていくために一つお願いしたい.
想像して欲しい.父として育児に時間とパワーを費やす生活を:是非明るい想像になりますよう.
自分がパートナーや子供の不調のために仕事にかける時間を減らさざるを得なくなる状況を:そんな選択をしている同僚は身近にいないだろうか.
親の介護をパートナー任せにできない状況を:これは比較的現実味があるのではないだろうか.

V.おわりに
まさに今,コロナ禍で生活様式など様々な変化が必要となっている.変動に対応するには「一枚岩の外科学会」だけではなく「多様性を取り込んだ外科学会」に変わる必要があり,その点でも女性外科医の登用は推進していく価値があると考える.女性医師側にも登用された場合に応えられるだけの気概をまずは持てるような意識変革が必要だろう.

 
利益相反:なし

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