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日外会誌. 121(6): 563, 2020

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Editorial

新型コロナウイルスパンデミックとテレワーク

帝京大学医学部 外科学講座

橋口 陽二郎



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新型コロナウイルスによるパンデミックは世界を席巻し,生活を一変させている.現時点(2020年5月末)で,世界の感染者は593万人に達し,36万人以上が亡くなった.最大の被害を蒙っているアメリカ合衆国では174万人が感染し,10万人以上が亡くなっている.第二次世界大戦の6年間における同国の死者数は29万人と見積もられており,すでに1/3に達していることになる.大戦に匹敵する人的被害に直面して,感染源や情報開示の遅延を巡って米中対立も激化し,米国のWHOからの脱退宣言など,世界情勢もウイルスによって風雲急を告げている.
人類はパンデミックに繰り返し襲われてきた.詳細が記されている最初のパンデミックは541年にコンスタンチノープルに発生したペストである.ペストは歴史上3回の大きな世界的な流行を起こし,14世紀に発生した2回目のペストの流行は「黒死病」として知られ,当時の欧州の人口の60%が死亡したと推定されている.大規模な直近のパンデミックは約100年前に発生したスペイン風邪(A型インフルエンザ)であり,日本でも20~40万人が死亡したと推定されている.この時の流行では乳幼児と20~30代前半の年齢層の死亡数が多くなっている点が,高齢者に致命率が高い今回の新型コロナウイルス感染症と大きく異なるところである.
さて,今回のパンデミックによって三密(密閉・密集・密接)を避けることが提唱され,日本外科学会をはじめとする多くの学会が中止あるいは延期された.情報通信技術を活用した,場所や時間にとらわれない柔軟な働き方であるテレワークが提唱され,これまで普及があまり進んでいなかった学会に関連した各種委員会の開催は,否応なくWeb会議で行われるようになった.直接会って議論することの重要性もさることながら,テレワークによって時間とお金の大幅な節約になることは間違いないところである.
臨床においては,新型コロナウイルスの感染リスクを避けるために保険診療の規制が暫定的に緩和され,初診でもオンライン診療が受けられることになり,普及が加速する可能性が高まっている.さらに教育においても,学生を集めて授業を行うことの感染リスクから,オンデマンドあるいはオンラインでの授業が行われるようになり,講義のスライドに音声を吹き込むなどの新しい手法が始まっている.
スペイン風邪がそうであったように,新型コロナウイルス感染も第2波,第3波の流行が懸念されており,有効なワクチンが開発されるまでは,三密回避の努力が続けられていくことになろう.今回のパンデミックは,人類をテレワークへと駆り立てた歴史的事件となる可能性が高く,日本外科学会においても遅滞なく対応していくばかりでなく,外科領域の診療,教育,研究にいかに生かして導入していくべきかを指導的立場から積極的に議論していく必要がある.

 
利益相反:なし

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