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日外会誌. 121(5): 547-549, 2020

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手術のtips and pitfalls

エネルギーデバイスを用いた腋窩リンパ節郭清術の実際

札幌医科大学 消化器・総合,乳腺・内分泌外科

九冨 五郎 , 竹政 伊知朗



キーワード
乳癌手術, エネルギーデバイス, 腋窩郭清

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I.はじめに
近年,世界規模の臨床試験1)の結果が報告されてから,特に乳房部分切除症例におけるmicro metastasisは腋窩郭清が省略されているのが現状である.しかしながら,腋窩郭清による局所制御も予後の改善に重要であり,2018年の乳癌診療ガイドラインにおいても腋窩郭清の重要性は示されている.乳癌手術における腋窩郭清は,手術時間の延長や術後出血,滲出液の漏出が問題となる.どのようにして血管シーリングを適切に行い,手術時間を短縮し,そして術後出血および滲出液の漏出を減少させるかが乳癌手術の課題である.
エネルギーデバイスによるシーリングはこの10年間で急速に進歩し,多くの新しい機器が利用可能になっている2).乳癌領域においては,2018年4月にエネルギーデバイスが保険収載され使用されるようになってきたが,乳癌領域におけるデータは多くないのが現状である.
当科において,腋窩郭清を含む外科手術を受けた原発性乳癌患者の術中および術後因子を後ろ向きに解析を行った.その結果として,乳癌腋窩郭清術の標準機器である電気メスよりも組織損傷が少なくシーリング効果の高い熱メスと超音波凝固切開装置(Ultrasonically activated devices;USAD)を比較してUSAD群において有意に手術時間が短く,出血量が減少した3).本解析は後ろ向きの検討であり,標準デバイスである電気メスとの比較ではないので,今後電気メスとUSADとの前向きの比較が必要となる.
腋窩郭清におけるtips and pitfalls:われわれは郭清の二つのポイントを挙げて手技の定型化を心掛けている.1)腋窩静脈からHigh Pointの郭清~High Pointに向けて剥離を行う際に,腋窩静脈下縁・胸壁・長胸神経で囲まれるトライアングルを意識して,三つの面に対して平行にUSADを動かしながら郭清を行っている.2)腋窩深部の郭清~助手の尾側と外側へのテンションを十分にかけUSADを尾側に動かして,中枢から末梢に意識をして,途中胸背静脈の細かい枝をUSADでシーリングすることによって無駄な出血を減らすように心がけている.

II.おわりに
USADの先端は両開き先端と狭い弧状の能動刃を持つ小児用ケリー鉗子に似た形状をしているため,器具を持ち替えることなしに,連続して組織の剥離,凝固が可能となりUSADを用いることにより乳癌手術,特に腋窩切開時の手術時間が大幅に短縮し,出血量が減少したと考える.

 
利益相反:なし

図1図2

図01図02

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文献
1) Giuliano AE, Ballman KV, McCall L, et al.: Effect of Axillary Dissection vs No Axillary Dissection on 10-Year Overall Survival Among Women With Invasive Breast Cancer and Sentinel Node Metastasis: The ACOSOG Z0011 (Alliance) Randomized Clinical Trial. JAMA, 318: 918-926, 2017.
2) Anlar B, Karaman N, Dogan L, et al.: The effect of harmonic scalpel, electrocautery, and scalpel use on early wound complications after modified radical mastectomy. European Surgery, 45(6): 286-290, 2013.
3) 九冨 五郎:第119回日本外科学会学術集会 ポスターセッション(112)乳腺-全般3,4. 19, 2019. https://www.micenavi.jp/jss119/search/detail_program/id:2405

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