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日外会誌. 121(5): 492-496, 2020

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特集

改めて認識する小児急性腹症治療に対する外科医の役割

2.小児急性腹症―総論―

杏林大学 小児外科

浮山 越史 , 渡邉 佳子 , 阿部 陽友

内容要旨
小児の急性腹症は,早期に適切に診断,治療が行われなければ,患児の生命予後や重篤な合併症に影響する疾患,病態が含まれる.絞扼性イレウス,臓器の血流障害,出血性疾患,腹膜炎,ショック症状を伴う腹痛が疑われる場合には,超音波検査と造影CTで早期診断し,早期治療が求められる.外科医はそれらの疾患の治療のみならず,診断に関与し,経験の少ない小児科医師へ教育することも必要である.また,小児科との連携も重要である.

キーワード
小児, 急性腹症, 腹痛, 外科医

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I.はじめに
急性腹症は急性に強い腹痛を呈する疾患の総称であり,腹部症状を呈する多くの疾患,病態が含まれる.小児急性腹症には,早期に,適切に,診断や治療が行われなければ,生命予後や重篤な合併症に影響する疾患が存在している.外科医は,患児の来院後早期から関わり,診察を行い,適切な検査を計画し,小児科とともに外科的疾患の有無の診断が必要である.また,外科的疾患の疑いがあれば,確定診断がつかなくても試験開腹や腹腔鏡検査の施行の判断を下さなければならない.小児急性腹症において外科医の役割は重要である.

II.問診・診察
問診において,できるだけ腹痛の性状を明らかにする.いつから,どこが,どのように,を中心に聞く(表11).具体的には,いつ頃からか,持続的であるか(絞扼性イレウス,腹腔内出血,腹膜炎など),間歇的であるか(腸炎,腸重積症,尿管結石など),突然か(絞扼性イレウスなど),だんだんと痛くなったか(腹膜炎など),痛みの程度が時間経過により変化があるか,痛みの部位は変化があるか,限局した痛みか(体性感覚神経を介した知覚),漠然とした部位の痛みか(内臓神経を介した臓器知覚),などを聞く.また,母親が強く異常を感じているようであれば要注意である.
腹痛以外の随伴症状や徴候も重要である(表22).消化器症状と消化器以外の症状が,原因診断の一助となる.そのため,腹部の診察だけでなく,胸部の聴診,診察,男児であれば陰部の診察も必要である.腹部診察では筋性防御,反跳痛は腹膜炎の症状である.筋性防御は左右差をみることで明らかになる.
年齢によって手術が必要な疾患の頻度は異なる(表31).新生児期に胆汁性嘔吐があれば,消化管閉鎖,腸回転異常症の可能性がある.乳児期,幼児期には腸重積症,腸回転異常症,内ヘルニアを含めた絞扼性イレウスを念頭に置く.学童期以降では急性虫垂炎が最も多いが,卵巣捻転等の臓器の血流障害は見逃してはならない.

表01表02表03

III.画像検査・診断
緊急を要する疾患のスクリーニングには超音波検査が有用である.外傷後の急性腹症ではFAST(focused assessment with sonography for trauma)を行い,心嚢液の貯留,腹腔内出血,腹腔内臓器損傷の有無を確認する.また,急性虫垂炎,腸重積症,腸回転異常症が疑われる場合には,POCUS(point-of–care ultrasonography)が適応である3).しかし,絞扼性イレウスのように腹腔内にガスが多い場合には,超音波検査では診断できないこともある.その場合には造影CTを行う.造影CTは診断の能力が高く,短時間で行うことができるが,放射線被曝の問題がある.その小児の場合にはまずは超音波検査を行い,診断できない場合に造影CTを行うことが望まれる.
腹痛と下血で腸回転異常症が疑われ,超音波検査でwhirl-pool signが明らかでない場合には否定するために,上部消化管造影で十二指腸の走行異常の有無を確認する.また,腹痛と嘔吐で腸重積症が疑われる場合に,超音波検査ができない場合は注腸検査を行う.急性腹症では絞扼性イレウスが否定できない場合には消化管造影検査や造影CTを行う必要がある.

IV.早期に診断・治療が必要な疾患
できるだけ早期に診断し,治療が求められる疾患は,絞扼性イレウス,臓器の血流障害,出血性疾患,腹膜炎,ショック症状を伴う腹痛である.急性腹症は時間経過でその原因が明らかになることも多いが,そのためには,一晩様子をみる前に,これら緊急を要する疾患を否定する必要がある.
小児の絞扼性イレウスで多いのは,腸回転異常症,腸重積症,内ヘルニア等のprimary ileus(開腹の既往のない腸閉塞症)である.診断で重要なのは腹部所見(強い腹痛,筋性防御),腹部単純X線写真で不均衡な小腸ガス像(腹部全体ではない)または無ガス像である.また,超音波検査でwhirl-pool sign(腸捻転),target sign(腸重積)がみられることである.初期の血液検査では白血球数やCRPは正常なことがある.術後またはprimary ileusによる絞扼性イレウスが疑わしければ造影CTを行い,3方向(axial,coronal,sagittal)の黄疸面で診断する.捻転部分を明らかにすること,ガスを多く含む小腸(捻転の口側)と液体だけを含む小腸(捻転部は出血のため液体で満たされている)が確認できれば確定診断である.腸管は造影効果があっても絞扼性イレウスを否定できない.
臓器の血流障害で重要なのは,鼠径ヘルニア嵌頓,精巣捻転症,卵巣嚢腫茎捻転であり,鼠径部,陰嚢等の腹部以外の診察も大切である.
出血性疾患で多いのは外傷後の腹腔内出血とメッケル憩室からの出血である.外傷後の腹痛であれば,FASTを行い,腹腔内出血の有無を確認する.FASTは腹腔内出血の感度が70〜90%であり,100%ではないので,疑わしければ,繰り返し行うことが大切である.FASTなどで腹腔内臓器損傷が疑わしければ,造影CTを行い,臓器損傷の程度を評価する.
持続する腹痛において,腹膜刺激症状(筋性防御,反跳痛),腹部単純X線写真(立位)で遊離ガス,がみられる場合には腹膜炎の確定診断である.
ショック症状を伴う腹痛は,重症である.当院では,腸回転異常症の小腸広範囲壊死,先天性胆道拡張症の重症感染,幼児の胃破裂を経験した4).ショック状態を改善後に早期の治療が求められる.急性腹症のアルゴリズムを図1に示す5)

図01

V.おわりに
急性腹症は,早期診断,治療が求められる疾患が存在する.救急外来で診察する医師の臨床経験が少ない場合には,それらの重要性を認識せず“一晩様子をみる”ことによって,患児に重大な合併症を伴う危険が存在する.外科医は,治療だけにとどまらず,診断や検査に関与し,臨床経験の少ない小児科医師への教育も大切である.また,小児科との良好な連携のために,普段から“相談しやすい外科医”であることも患児のために重要である.

 
利益相反:なし

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文献
1) 浮山 越史:Ⅳ章知っておくべき症候とその対応E.腹痛.市川光太郎編,要点をおさえる小児救急・プライマリケア―ピットフォール症例から学ぼう!,南江堂,東京,pp167-171,2015.
2) 上村 克徳,村田 佑二:腹痛.日本小児救急医学会教育・研修委員会編,ケースシナリオに学ぶ小児救急のストラテジー,へるす出版,東京,pp62-64,2009.
3) 浮山 越史:腹部の見かたと診断.日本小児集中治療研究会編著,小児のPoint of Care Ultrasound―エコーでABCDを評価しよう!,メディカ出版,大阪,pp85-115,2016.
4) 渡邉 佳子,浮山 越史:内因性疾患によるショック.小児外科,50:754-761,2018.
5) 浮山 越史:消化器疾患:急性腹症.市川光太郎,天本正乃編,内科医・小児科研修医のための小児救急治療ガイドライン改訂第4版,診断と治療社,東京,pp282-288,2019.

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