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日外会誌. 121(5): 487-488, 2020

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理想の男女共同参画を目指して

2020年の時点で考える外科医の男女共同参画とは?

順天堂大学 医学部乳腺腫瘍学講座

齊藤 光江

内容要旨
男女共同参画は,外科医不足や働き方改革と表裏一体で解決されねばならない課題です.歴史を振り返り,この課題解決が困難であった背景,今後推進するための方策について考察してみました.

キーワード
男女共同参画, 多様性, 働き方改革, 新型コロナウイルス, タスクシフト

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I.はじめに
新型コロナウイルスで尊い命が奪われ,通常診療の維持,終息に向けての基礎や臨床の研究の動向,二律背反する医療と経済のバランスへの懸念と共に,医療崩壊の不安に動揺させられた上半期でありました.一方,外科医の抱える諸問題は,この情勢をむしろ利用してでも着々と解決の糸口を見つけて行かねばなりません.本稿のテーマである男女共同参画の課題は,働き方改革や外科医減少問題と表裏一体と考えられ,互いの関係を意識しながら論じてみたいと思います.

II.男女役割分担の歴史
男女の明確な区別を望まない人々の市民権も認められる昨今,男女共同参画は,多様性の尊重の中で語られるようになりました.わが国の歴史を振り返ると,女性は家を守り,男性は家長として家計の担い手であるという役割分担の慣習以外に,家制度(1898年制定の旧民法)では戸主(家長)に明確な家族の統率権が与えられ,男女には上下関係がありました.その後,家制度の廃止(1947年日本国憲法制定)や教育の機会均等(1947年教育基本法第3条制定)が唱えられ,男女雇用機会均等法(1985年)制定の後,終身雇用制度1)の崩壊2)で男性が家計を担い続けることが必ずしも容易ではなくなってきた社会情勢,核家族化と結婚観の変化等もあいまって,女性の自立を受け入れる社会の動きに至りました.しかし諸外国と比較すると,日本の遅れは明確です3).男らしさ,女らしさ,男たるもの,女だてらに,男勝り等の言葉が,長きに亘り女性からも発せられてきた文化的土壌と共に,家制度の名残である戸籍制度,夫婦別姓導入の遅れ,配偶者控除(1961年税制改正で制定)等の社会的背景があります.特に後者は,夫の扶養控除の有利性を活かすために,妻は控除範囲内の収入を守るという結果を招いています4).また地理的,言語的特性等から海外の影響を受けにくいことも一因かもしれません.

III.VISIONは多様性の獲得
『多様性』が追求されるようになったのは,これまで社会は特定の集団によって主導されてきたからです.単一集団は,排他的になることが危惧されています5).ナチスドイツの優性思想がその典型例です.排他的になると他の集団を排除し,組織の成長が止まります.異分子との遭遇は,違いを理解する過程に学びがあります.性差のみならず,民族,年齢,地域,生活環境,学歴,職歴,宗教の多様性を受け入れる集団を目指さねばならない所以です.しかし組織が変わるためには相応の動議付けが必要です.

IV.外科医にとっての課題と男女共同参画
昨今の外科医が直面する二つの課題,①外科医減少,②働き方改革が,多様性や男女共同参画を推進する動議付けになるかを考えてみたいと思います.
① 外科医減少:男女を問わず外科の魅力を若い世代に伝えるべきでしょう.進路を考え始める中高生に,診療や研究の現状を示すことは,外科への誘いのみならず,自身のVISIONが描ける医師・研究者の育成に繋がりましょう.また,これまで男の牙城と思われていた外科に後継者がいないとなれば,志ある女子たちが集うことは大いに期待されます.
② 働き方改革:これまで外科医は滅私奉公,自身の生活を顧みず,目の前の患者に尽くしてきました.結果,自身の技術と精神力が磨かれ,患者や後輩の信頼を得ているという自負が産物です.しかし今更ながら医師にも,労働法に則った働き方改革が求められています.これまで安価で良質の医療をいわば無法地帯の過剰労働に依存してきた日本社会ですが,時間管理の視点からのみ改革を進めれば様々なひずみが生まれましょう.患者の受診行動の変容も求められます.事務仕事や処置業務等のタスクシフトも必要でしょう.自らの過剰労働には対価が支払われず,次世代の働き方改革まで任されたリーダーたちは割に合いませんが,それ以上に,耕した土を全部入れ替えるが如き大事業に大きな戸惑いを感じているに違いありません.しかし,この事業はより良い医療の構築のために極めて重要なものとなりましょう.なぜなら,これまで過剰労働を担ってきた外科医(圧倒的多数は男性)という集団に多様な属性の人々が動員されるからです.即ち,諮らずして多様性の獲得ができるわけです.詰めかける患者を主治医が四六時中診ることができないとなると他職種や他の医師も関わり,必然的にチーム制になり,若手の修練は,ベッドサイドよりも仮想体験ができる教育資材に求められ,そのための教育担当者,開発者の参入も始まるでしょう.これまでも働き方のバリエーションが多かった女性の参入が重宝される時代の到来です.参加してこそ,知られざる女性の特性や能力が明かされるでしょう.家庭生活に根差した知恵も生きるでしょう.また,彼女たちが組織で揉まれ生き抜く力も育まれるでしょう.信頼を得てリーダーシップポジションに上る人材も増えるでしょう.かようにして,働き方改革は女性の参画を促し,また多様な女性を受け入れることで男女を問わない外科医全体の働き方改善に繋がることでしょう.

V.おわりに
2020年は新型コロナウイルス感染症流行で,生活変容を強いられる年になりました.患者の受診控えや手術トリアージ,学会の延期とWEB会議は,医師の働き方を期せずして改善しました.また2024年の医師の働き方改革に向けて外科医の職務・修練・キャリア形成の変革も進められています.これらの大規模地殻変動の中で,社会が究めなくてはならない多様性尊重が加速して実現する胎動が聞こえます.そして大地の割れ目に生える多様な若草の中に女性たちの活躍を見ることが期待されます.

 
利益相反:なし

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文献
1) Abegglen JC: The Japanese factory:Aspects of its social organization. Glencoe, IL:Free Press, 1958.
2) 緊急提言 終身雇用という幻想を捨てよ―産業構造変化に合った雇用システムに転換を―.NIRA研究報告書,総合研究開発機構,東京,2009.
3) Employment Outlook OECD http://www.oecd.org/employment/outlook/
4) 伊田 賢司:配偶者控除を考える.財政金融委員会調査室.立法と調査,358: 11-25, 2014.
5) Taylor C: Thinking and Living Deep Diversity. Rowman & Littlefiel Publishers, Lanham, MA. USA, 2002.

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