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日外会誌. 121(4): 472-474, 2020

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卒後教育セミナー記録

日本外科学会第96回卒後教育セミナー(令和元年度秋季)(第81回日本臨床外科学会総会開催時)

知っておくべきサブスペシャルティ領域別トレーニングプログラム
 1-2.知っておくべきサブスペシャルティ領域別トレーニングプログラム
―内分泌外科―

筑波大学 乳腺内分泌外科

原 尚人

(2019年11月16日受付)



キーワード
内分泌外科専門医, 一般社団法人日本内分泌外科学会, On the job training, Off the job training, Cadaver

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I.はじめに
内分泌外科専門医のトレーニングシステムは背景となる二つの学会の統合を終えたばかりであり,残念ながらやっとスタートラインに立ったばかりの状況である.新学会のもと,今後早急にトレーニングプログラムを整備する予定である.今までの経緯を踏まえた現状と問題点,今後の計画を述べる.

II.外科6サブスペシャルティ領域としての内分泌外科,その背景と学会の統合
内分泌外科専門医は乳腺専門医とともに従来の四つのサブスペシャルティ領域に加えていただいた.従来の4サブスペシャルティと異なる点は基盤領域が外科のみでなく他領域にもまたがる点である.内分泌外科専門医は外科専門医に加え,耳鼻咽喉科専門医と泌尿器科専門医にまたがって存在している.さらに背景となる学会が旧日本内分泌外科学会と旧日本甲状腺外科学会にまたがるという非常に複雑な背景のもとに存在していた.この問題を解決すべく二つの学会の発展的統合を終え,2019年春より新たに一般社団法人日本内分泌外科学会として活動を行っている.

III.内分泌外科専門医にもとめられるもの
どの外科系専門医にも共通することであるが,知識と技術の両輪が求められる.
知識においては,内分泌外科専門医が扱う内分泌臓器そのもの,およびそこに発生する腫瘍の特徴に対して,正しい知識をもとに正確な判断をくだし,治療方針を決定していかなくてはならない.
内分泌外科医が扱う内分泌腫瘍の特徴として,鑑別が重要な3点が存在する.
1.その腫瘍が良性か悪性か.
2.その腫瘍が機能性か非機能性か.
3.その腫瘍が真の腫瘍か過形成か.
この3点がともに手術適応や手術方法に大きく関与する.
もう一方が技術の習得である.内分泌外科においては診断技術として主なものは超音波診断,細胞診,手術手技においては通常の手術に加え,内視鏡手術の習得となる.
今までは診断技術は日本乳腺甲状腺超音波医学会,内視鏡手術は日本内視鏡外科学会や日本泌尿器内視鏡学会など各々の領域,分野におけるトレーニングプログラムに頼っていた感がある.新学会を契機に学会主導のシステムの構築が急がれる.

IV.内分泌外科専門医トレーニングプログラム
1.内分泌外科専門医のOn the job training, off the job training
内視鏡下甲状腺手術は保険収載後施行例が上昇中であるがまだまだ一般的でなく自施設のみで修練は難しい.腹腔鏡下副腎手術は保険収載も早く,すでに標準術式化されているが副腎疾患が比較的稀なため同様に自施設のみで修練できる機会は少ないといえる.
これらのように通常の自施設での診療,すなわちon the job trainingではまかなえないものを次のoff the job training で補う必要がある.
2.学会主導の手術見学および短期国内留学システム
先述のように,内視鏡下甲状腺手術や腹腔鏡下副腎手術を行っている施設が限られていることに対応して,新学会において新たな委員会構築を行い三つのシステムを準備中である.
1)手術見学システム:日本内視鏡外科学会で行われている手術見学プログラムと同様なシステムを導入すべく準備中である.
2)短期国内留学斡旋システム:技術認定や施設認定には術者経験を要するため,見学だけでは賄えず,ある期間常勤医として多数症例施設に勤務できるよう学会が斡旋する.
3)短期国内留学者認定システム:国内留学希望者も,手術に熟達したものから全くの未経験者まで様々である.受け入れ者が集中しやすい施設の負担を軽くするため,学会が単に施設を斡旋するだけでなく,希望者の質の保証も行うよう検討している.
3.内分泌外科専門医のためのwet labの問題点
主に内視鏡手術のトレーニングに動物,特に豚を使用する分野は多いが,豚の甲状腺は体重のわりに小さく,かなり縦郭内に入り込んだ位置にあるため使用しづらい.同様に豚の副腎は解剖学的位置関係がヒトと大きく異なるため,やはりトレーニングに不向きの感がある.
そこで推奨したいのがCadaverの使用である.
固定法別では通常のホルマリン固定や低濃度ホルマリンと添加物使用のThiel法は組織が固くなり操作性が失われることと臓器,血管の色調変化などの欠点があげられる.
内視鏡下甲状腺手術のトレーニングの際は,副甲状腺などの周囲重要臓器,細い血管,神経などの同定が重要となるため,感染の危険性や費用の面での欠点があるものの未固定遺体の使用は有用性が高い.ただし実質臓器は含血流低下による虚脱がみられ,甲状腺は特に縮小が著しいのが残念である.
4.内分泌外科専門医,認定施設,関連施設の育成
疾患頻度の低い疾患は人口比と比例して地域格差が強く専門医に必要な症例数の確保が困難となる.専門医が育たないと認定施設,関連施設も増えない地域が生じ悪循環に陥る.
内分泌外科専門医の認定施設には常勤の専門医を要し,関連施設では常勤の学会会員および必要に応じて専門医による十分な指導体制がとられていることとしている.しかし現状では内分泌外科専門医の県別分布では地域差が大きく,専門医不在の県も存在する.日本内分泌外科学会の対策としては1)地方ごとに責任指導者を配置する.2)専門医制度委員会委員が独自の関係性を持っている場合,学会でサポートする.具体的には各専門医が遠隔地への指導の際,TeleconferenceやElectronic mailなどの電子媒体を使用した指導でも可とし,書類審査にはそれらの通信記録をもって判断することにしている.

V.おわりに
内分泌外科専門医を構成する二つの学会の発展的統合を行い,新学会が発足した.
世間に対して内分泌外科専門医の役割を明確にし,それに基づいたトレーニングシステムが必要とされる.そのためには,今までは二つの学会,三つの主な基盤領域が個々に行っていたトレーニングシステムを融合し,新学会のもと統合したトレーニングプログラムを早急に構築する予定である.

 
利益相反:なし

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