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日外会誌. 121(4): 400-402, 2020

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特別企画

特別報告―日本外科学会の新型コロナウイルス感染への取り組み―

日本外科学会コロナウイルス対策委員長,東京医科大学 呼吸器甲状腺外科 

池田 徳彦



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新型コロナウイルス感染症が発生し,瞬く間に全世界に拡大していった.新規の感染症ゆえ,病態の全容は未知であり,診断手順や治療法も確立されるに至っていない.わが国では感染蔓延のため,2020年4月7日に7都府県に対し緊急事態宣言が発出され,4月16日には全国が対象になった.
新型コロナウイルス感染蔓延下で外科医は患者本来の疾患の手術を行いつつ,ウイルス感染を含む術後合併症を回避し,同時に医療従事者や院内の感染を避けるという複数の責務を負うこととなった.
特に手術対象は中高年齢層が多く,原疾患とともに併発疾患を有することが多いため,新型コロナウイルスに感染しやすく,重症化する危険もあり,特に注意を要する.
このような社会と医療の状況を踏まえ,4月1日に当学会にコロナウイルス対策委員会が緊急に設置された.4月,5月の日本外科学会の新型コロナウイルス感染に関係する活動を委員会の紹介も兼ねて報告する.
まず直面したのが手術トリアージの計画である.本来なら手術適応であっても,疾患の性質や緊急度に応じて即座に手術を行うか延期するかの判断が必要となる.術後に新型コロナウイルス感染に罹患し重篤化するリスクと手術の延期による医学的な不利益の度合いを勘案することになる.
また,多くの麻酔科医や集中治療医が呼吸不全に陥った感染患者の治療に従事するため,特に重症例が重なると通常の手術を行う機能が低下してくる.従って手術トリアージ方針は患者の状態とともに地域の感染状況,施設の医療資源,マンパワーなど,様々な要素によって左右される.
コロナウイルス対策委員会として手術トリアージ判断のための臨床的根拠や指標を提供することが最優先事項と考え,「新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する外科手術に関する提言」を作成した.説明のため同内容の動画メッセージと一緒にホームページ上で公開した.トリアージの方針を中心に詳説したが,併せて手術による院内感染のリスク低減のための留意点や医療従事者保護のための内容も網羅した.この提言は外科系領域で広く賛同が得られ,日本医学会連合ならびに多くの外科系学会との連名で発出された.
感染拡大に即時に対応できるよう,スピード感を持って有益な情報を提供することを委員会の方針とし,4月6日にはAmerican College of Surgeonsによる領域別手術トリアージ計画のガイドライン(2020年3月24日版)の紹介もホームページに収載した(図1).
続いて,4月14日には医療供給体制(安定時,ひっ迫時),対象患者の新型コロナウイルス感染の有無,疾病レベル(3段階)の組み合わせにより,さらに明確化したトリアージの目安を作成,紹介した.
また,手術適応と判断された患者が無症候性の病原体保有者であった場合は,患者自身の術後合併症の発生や院内感染が危惧されるという問題も惹起してきた.院内感染防止のためのPCR検査の必要性や保険適応を求める声明は全国医学部長病院長会議や複数の大学群も声明を発表した.
この問題への対応として,本学会と日本消化器外科学会および日本医学会連合で4月9日に加藤勝信厚生労働大臣あてに「全身麻酔管理下外科手術における新型コロナウイルス核酸検出の保険収載に関する要望書」を提出した.術前に新型コロナウイルス核酸検出法によるスクリーニングを行うことにより不顕性感染患者を発見し対処できれば,重篤な術後合併症や院内感染の防止に直結する.この様な検査方式への保険適用の拡大を要望した.
加えて,日本医学会連合の門田守人会長のもと,所属学会理事長との連名で「緊急提言 進行する医療崩壊をくい止めるために」を4月29日に安倍晋三内閣総理大臣と加藤勝信厚生労働大臣に進言した.緊急提言は
⃝医療機関におけるPCR・抗体検出検査体制の早急な大幅拡充のための支援
⃝個人防護具の充足
⃝医療従事者への支援体制の確立
⃝研修中の医療従事者に対する施策
⃝今回のパンデミック終息後の施策
の5項目が主な内容である.
緊急対応を要する事項とともに中長期的観点から感染症,パンデミック発生時の医療供給体制についての教育と実地訓練の促進,感染症パンデミックの対策を大学・基幹病院に義務化することや医療従事者,医療資源の供給体制のデータ把握,集中治療体制の強化なども提案した.
本学会が主張した事項を提言内容に多く採用していただけたことは喜ばしいことである.
これらの医療現場からの声を政府や厚生労働省にもご理解いただき,5月15日には新型コロナウイルスに対するPCR検査は,無症状の患者に対しても医師が必要と判断し実施した場合は保険適応となった.(https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200518.pdf)
また,5月18日にはPCR検査の需要増大に対応するための検査体制確保のために新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金が活用可能となった.(https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200520-02.pdf)
PCR検査はわが国では検体処理機能が諸外国と比較して少ないことも関係したのか,当初は検査を行うのに発熱の継続が前提になるなどの制限があり,結果として感染患者数の実数把握や早期発見には不利な状況となっていた.提言の提出は全国の検査体制を改善するための契機の一つになったかと想像する.
社会全体で外出自粛を継続した効果で,5月に入ってからは感染拡大が緩やかとなり,5月14日の段階で39県では緊急事態宣言が解除された.各施設において第2波の発生を予防しつつ中止・延期された手術および新規の予定手術が施行できる体制の回復を計画すべき時期が到来した.その際の指針とすべく,コロナウイルス対策委員会として「新型コロナウイルス感染症パンデミックの収束に向けた外科医療の提供に関する提言」を立案した.感染最盛期の12週間で世界中で中止・延期された手術はその間の予定の72.3%と推定され,ここからの急速な手術の提供体制の回復は困難であり,感染予防,患者と医療従事者の安全確保を確認しつつ段階的な改善が望まれる.提言の内容に外科系学会から賛同を頂戴し,本学会とともに連名で公示に至った.
本学会は国民が危機的状況に陥る感染症を経験する中で,日本医学会連合や他の外科系学会とともに安全な医療のための情報提供や政府に向けて医療現場からの提言をさせていただいた.コロナウイルス対策委員会はその準備,実務を担当した.
5月25日にわが国全体の緊急事態が解除されたが,日本外科学会は外科医療が従来に復する支援を継続しつつ,医療崩壊を起こさない医療人と組織の構築に貢献していく所存である.

図01

 
利益相反:なし

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