日外会誌. 121(3): 337-339, 2020
手術のtips and pitfalls
開胸による下行大動脈遮断術
山梨県立中央病院 高度救命救急センター 岩瀬 史明 |
キーワード
蘇生的開胸, 緊急開胸セット, 前側方切開
I.はじめに
大動脈遮断は,心停止が差し迫っているか心停止直後の重症外傷に対して,脳還流圧や冠動脈還流圧の維持と横隔膜下の臓器損傷に対する止血の目的で行われる.緊急開胸による大動脈遮断は侵襲的処置であるが,心停止が迫っている患者に対して躊躇している暇はない.蘇生的開胸の適応は,来院までの心肺蘇生時間が,鈍的外傷においては10分未満,鋭的損傷においては15分未満もしくは,生命徴候(自発的な動き,対光反射・眼球運動,自発呼吸,心電図モニター上40/回以上の波形を認める)を認める段階である.実際には,心停止に陥ってからでは救命率は非常に低いため,救命のためには心停止が切迫している段階で開胸および大動脈遮断を決断すべきである1).
出血性ショックに対する輸液・輸血蘇生を行い,心停止が切迫した段階では,開胸の準備をして躊躇なく行うことが重要である.心停止になってからの蘇生は,困難を極めるために迅速な判断が求められる.
ドクターヘリ,ドクターカーでの病院前診療でも緊急開胸セットを準備しておけば救急車内で蘇生的開胸を行うことは可能であり,病院前で開胸を行った症例の救命例も報告されている2).メスと剪刀,遮断鉗子があれば十分に行え,迅速に病院へ搬送して根本的治療につなげるべきである.
心停止している場合には,引き続き心嚢を切開し開胸心臓マッサージを行う必要があり,心嚢を切開するときには横隔神経を損傷しないように気を付けるべきである.心臓に対する処置や右胸腔内の操作が必要な時にはそのまま胸骨を横断して両側開胸(clamshell thoracotomy)とする.
下行大動脈の遮断の許容時間は,長くても30分といわれているため,この間に根本的に出血をコントロールできなければ遮断を解除することはできず,患者を救命することもできない.出血がコントロールできたなら,血圧モニターをみながらゆっくりと遮断鉗子を緩めていく.大動脈前後を剥離することにより,肋間動脈やAdamkiewicz動脈を損傷する可能性もあるが鈍的に適切に行えば,手技に伴う合併症はほとんど起きない3).
利益相反:なし
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