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日外会誌. 121(2): 247-248, 2020

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生涯教育セミナー記録

2019年度 第27回日本外科学会生涯教育セミナー(九州地区)

各分野のガイドラインを紐解く
 3.大腸―本邦における直腸癌と肛門管癌のStagingと治療ガイドライン―

大腸肛門病センター高野病院 外科

山田 一隆 , 佐伯 泰愼 , 岩本 一亜 , 福永 光子 , 田中 正文 , 野口 忠昭 , 高野 正博

(2019年5月18日受付)



キーワード
rectal cancer, anal canal cancer, treatment guideline, lateral lymph node dissection, chemoradiotherapy

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I.はじめに
直腸癌と肛門管癌の国際的病期分類として国際対がん連合(UICC)のTNM分類が用いられており,治療ガイドラインとしてはNCCNガイドラインを始めとする欧米各国のガイドライン(NCI,ESMO,NICE,ASCO)が用いられている.一方,本邦での病期分類と治療ガイドラインとしては,大腸癌取扱い規約と大腸癌治療ガイドラインが用いられている.特に,直腸癌に対する治療戦略の相違点とともに,本邦における肛門管癌の病期分類と治療戦略に関する課題を検討すべきと思われる.

II.直腸癌のStaging
TNM分類・第8版の直腸癌病期分類では,T因子(Tis,T1,T2,T3,T4a,T4b)は壁深達度で区分され,N因子(N0,N1a,N1b,N1c,N2a,N2b)はリンパ節転移個数で区分され,M因子(M0,M1a,M1b,M1c)は遠隔転移の有無・臓器数と腹膜転移で区分され,Stage 0・Ⅰ・ⅡA,B,C・ⅢA,B,C・ⅣA,B,Cに分類されている.
本邦の大腸癌取扱い規約・第9版ではTNM分類・第8版とほぼ同様であるが,T1a(粘膜下層への浸潤距離が1,000μm未満)とT1bの細分化,N3(主リンパ節転移;Rbでは側方リンパ節を含む)の設定,ならびにM1c1,c2の細分化が挙げられる.

III.直腸癌に対する治療ガイドライン
欧米では1950年代にSauerらにより骨盤内リンパ節郭清の重要性が報告されたが,その後にStearsらより生存率向上に寄与しないことが報告され,骨盤内リンパ節郭清は縮小した.また,Healdらによるtotal mesorectal excision(TME)の局所再発制御などの治療成績の向上が報告された1).さらに,Dutch trialでの術前radiotherapy+TMEによる局所再発制御の有用性とともに,German trialでの術前chemoradiotherapy(CRT)+TMEによる局所再発制御の有用性などが報告された2).これらの結果より,進行直腸癌に対する治療戦略として,術前CRT+TMEが原則として行われている.
一方,本邦では1960年代より側方リンパ節郭清(lateral lymph node dissection;LLND)が局所再発制御・生存率向上へ寄与する事が報告されている.また,1990年代より自律神経温存手術の普及により,術後排尿・性機能障害の改善が認められている.更に,LLNDの適応基準はcT3以深の下部直腸癌であり,LLNDによる生存率向上と局所再発制御が期待される事が報告されている3).これらの結果より,進行直腸癌に対する治療戦略は欧米とは異なりTME+D2~D3郭清であり,進行下部直腸癌ではTME+LLNDが行われている.
なお,StageⅣ直腸癌に対する治療方針として,本邦では遠隔転移と原発巣がともに切除可能な場合には,両者の切除を考慮する.一方,NCCN guidelineなどでは肝・肺転移の切除可能症例でも,化学療法を行ったうえでCRTを行い,再評価して原発巣と転移巣の切除を考慮するとの若干の相違がみられる.

IV.肛門管癌のStaging
TNM分類・第8版において肛門管の定義が変更され,従来の外科学的肛門管(恥骨直腸筋付着部上縁から肛門縁)に肛門縁から5cmの周囲皮膚(外陰部を除く)が追加された.肛門管癌の病期分類では,T因子(Tis;上皮内癌,T1;最大径≦2cm,T2;2cm<最大径≦5cm,T3;最大径>5cm,T4;隣接臓器浸潤)は腫瘍最大径と壁深達度で区分され,N因子(N0,N1a,b,c)は領域リンパ節(鼠径LN・直腸間膜LN・内腸骨LN・外腸骨LN)への転移で区分され,M因子(M0,M1)は遠隔転移の有無で区分され,Stage 0・Ⅰ・ⅡA,B・ⅢA,B,C・Ⅳに分類されている.また,発生学的には内胚葉性と外胚葉性組織の接合部であり多彩な組織を有し,欧米での肛門管癌は多くが扁平上皮癌であることが報告されている(68.3~84.6%).一方,本邦では肛門管癌の罹患率が低く,組織型に関する過去のアンケート調査では扁平上皮癌は低率であり(20.6%,16.2%),大腸癌取扱い規約での肛門管癌の進行度分類は無いのが現状である.

V.肛門管癌に対する治療ガイドライン
肛門管癌の治療方針に関しては,TNM分類・第8版では肛門管には肛門周囲皮膚も含まれたため,従来の肛門管癌と肛門周囲皮膚癌の治療方針となる.従来の肛門管癌における扁平上皮癌と腺癌では治療戦略が相違し,扁平上皮癌症例ではCRTが主治療法となり,腺癌では直腸癌治療ガイドラインに基づいた手術療法が主治療法となる.肛門周囲皮膚癌の治療ガイドラインでは,T1,N0で分化型扁平上皮癌症例などでは局所切除となるが,それ以外ではCRTが主治療法となる.一方,本邦においては肛門管癌の治療ガイドラインは無く,欧米の治療ガイドラインに基づいた治療が行われている.

VI.おわりに
本邦と欧米の直腸癌治療ガイドラインでは相違がみられるが,両者の有用性と課題を検討し,症例に応じた適切な治療方針を考慮すべきと思われる.また,本邦における肛門管癌に関しては,大腸癌研究会project研究「肛門管癌の病態解明とStagingに関する研究」において,本邦の肛門管癌症例の特徴を解析し,今後の適切な肛門管癌取扱い規約と治療ガイドラインを作成することが重要となる.

 
利益相反:なし

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文献
1) Heald RJ, Husband EM, Ryall RD: The mesorectum in rectal cancer- the clue to pelvic recurrence? Br J Surg, 69: 613-616, 1982.
2) Sauer R, Becker H, Hohenberger W, et al.: Preoperative versus postoperative chemoradiotherapy for rectal cancer. N Engl J Med, 351: 1731-1740, 2004.
3) Sugihara K, Kobayashi H, Kato T, et al.: Indication and benefit of pelvic sidewall dissection for rectal cancer. Dis Colon Rectum, 49: 1663-1672, 2006.

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