日外会誌. 121(2): 155-156, 2020
若手外科医の声
若手外科医にとっての10年
川崎市立川崎病院 外科 田中 真之 [平成19(2007)年卒] |
キーワード
10年, 肝胆膵外科, 取り組み
I.はじめに
私は現在医師13年目の肝胆膵外科医である.外科医になってから10年が経った.レジデント期間が長かったこと,留学を経験したことなどから,この年で初めて自分より若い医師と手術をしている.自分の思い通りにいかないことが多く,未だに必死に術書を読んで,手術ビデオを見てから手術に臨んでいる.若い先生に指導しなければいけない立場でありながら,余裕がない「若手外科医」である.現状をみると,自分が歩んできた道は若手外科医の理想とかけ離れていると言わざるを得ないが,今までの指導医からいただいた10年という言葉をもとに,肝胆膵外科医として持つべき姿勢について読者の先生方と一緒に考えたい.
II.肝胆膵外科の発展
この10年で肝胆膵外科手術は大きな進歩を遂げた.肝胆膵外科手術は開腹術から腹腔鏡下手術,ロボット支援下手術まで多様化し,縮小手術から拡大手術まで幅が広がった.また,化学療法の発達により術前術後補助療法が有用となり,conversion surgeryの機会も増え,長期生存が望めるようになってきた.肝胆膵外科医としてこの時代の流れに適応しなければならないのだが,そのためにはどういう意識を持たなければならないのか.
III.指導医からのメッセージ
「前後10年の奴はみんなライバルだ」
医師6年目の時,9年上の指導医から言われた.正直度肝を抜かれ,理解の範疇を超えていた.雲の上の存在である指導医にライバル視されるほどの実力を持ち合わせてないことは一目瞭然であった.一方で,少しでもライバルになれるよう,どんなディスカッションをするときも気を抜いた発言をしてはいけないと覚悟したのも事実である.この発言は,常に切磋琢磨し,刺激を求めるモチベーションがあるからこそであろう.ライバルとみるということは相手を尊重し,相手から学び取るということであり,成長に繋がる.私もこの歳になって指導される機会が減ってきており,自分で積極的に学ばなければ次のステップに進めないことを痛感している.どんな些細なことにでも気づき,吸収することで新たな発想が生まれるかもしれない.相手として近い年代の者の方が親近感のみならず危機感も持つことができ,成長しやすいと言える.きっと10年という期間が,同次元にいることが可能である妥当な数字なのだろう.今まさに前後10年以内の先生が多い環境なので彼らからヒントをもらいながら日々研鑽を積んでいる.
「10年後の自分は何してるん?」
医師8年目の時,当時の部長に言われた.もどかしい気持ちになった.手術も研究も日本のトップレベルであった部長のようになりたいという漠然とした思いだけはあったが,現状のレベルを考慮すると到底口にできないし,そもそもそうなるための道筋も全く見えていなかった.医局在籍の自分では将来のことなんて自分で決められないと思っていた.部長はそういうことを理解した上で,それでも10年先までのビジョンを常に持ちなさい,という教訓を与えてくれたのだろう.当時は全く理解できていなかったが,今になって薄っすらとビジョンが見えてきて,そこに向かう道筋も何となく想像できるようになってきた.市中病院勤務になったことで,自主性が出てきたのかもしれない.医局に在籍しているからこそ努力すれば様々なチャンスを提供してもらえると考えている.今までの10年と同じくあっという間なのだろうから,常に10年先を意識しなければならないし,この10年で達成できることをイメージしなければならない.
IV.これまでとこれから
この10年で「若手外科医」として色々なことを経験した.市中病院で一人レジデントとして病棟管理・手術に全力投球した.大学病院では臨床・研究を行い,また,医師としての社会性を学んだ.ハイボリュームセンターでは肝胆膵外科の周術期管理・手術に没頭した.ドイツ留学では研究に専念すると共に家族との時間も大切にした.そして現在の病院に赴任して半年経ち,外来から術後フォローまで責任を持って多数の症例を担当した.最初の10年は「経験」と纏めるのが相応しい.指導医から様々なことを学び,留学で世界観を広げることができた.次の10年は「挑戦」.私は膵臓外科領域のエビデンス作りをするべく,多数のシステマチックレビューを行ってきた.膵臓外科について道を切り開くために,引き続き論文を執筆しながら次のステップを目指している.私の目標は肝胆膵外科のacademic surgeonになることである.そのために臨床・研究・論文は必須であり,過去10年の経験をもとにしながら前後10年の先生から新知見を貪欲に学び,新たなことに挑戦したい.興味深いトピックは至るところにあるだろうし,未開拓の研究分野を発見することで自分の武器を作り,それを世に発信できればと考えている.10年後に肝胆膵外科症例を十分数執刀できる病院で働き,新しい手術手技の習得および開発に挑戦し,斬新なことを研究していたい.
V.おわりに
若手外科医の先生方に質問します.
「あなたにとっての10年って何ですか?」
謝 辞
今までに貴重な機会を賜りました慶應義塾大学一般・消化器外科の北川雄光教授,本企画の執筆にあたりご推薦およびご指導賜りました篠田昌宏准教授に深謝いたします.
利益相反:なし
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