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日外会誌. 121(1): 143-144, 2020

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卒後教育セミナー記録

日本外科学会第95回卒後教育セミナー(平成31年度春季)

魅力的な外科医師育成プログラムを目指して!
 5.Low volume centerの弱点克服のために海外の施設を活用する方法
―沖縄県立中部病院外科での取り組み―

沖縄県立中部病院外科,院長 

本竹 秀光

(2019年4月20日受付)



キーワード
外科医の減少, 働き方改革, 研修環境, 施設集約

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I.はじめに
わが国の外科医のなり手が少ないと叫ばれて久しい.厚生労働省の資料によると1994年を1.0とすると2006年までは減少傾向にあったもののその後は増加傾向にある.しかし,他科と比べると産科・婦人科と同様,医師数の伸び率は必ずしも増加傾向とは言い難い.加えて国の働き方改革の中で医師の働き方が問題となっているが,他科と比べ長時間労働になりやすい外科においては外科専攻医の確保は喫緊の課題である.外科が魅力的であるにはquality of lifeは勿論であるが,研修時代に優れた指導医のもと,如何に多くの症例にexposureされ,できるだけ短期間に一人前の外科医になれるかは今も昔も共通と考える.本セミナーでは本土とは時代背景が異なるが沖縄県立中部病院の取り組みを述べる.

II.沖縄県立中部病院外科での取り組み
当院は感染症4床を含む559床の総合病院である.沖縄県は太平洋戦争で焦土と化し,1945年(終戦)に医師の数はわずか64名と言う極度の医師不足で,医師の養成が喫緊の課題であった.当時は米国の統治下にあったため医師を志す者は,留学生という形で公費を利用し本土の医学部で教育を受けさせた.しかし,沖縄では卒後臨床研修施設がないために医師になっても沖縄にもどる者は当初の予想より少なく,問題となった.1967年米国民政府の支援のもと琉球政府立中部病院(現県立中部病院)で卒後医学臨床研修が開始された.指導医はハワイ大学を中心に米国本土から総勢20数名が招かれ,2年間で自立して診療できるgeneralistの育成が始まった.教育方法は米国のレジデント制に準じたもので,研修目標は①救急蘇生法をいつ,いかなる場所でも,独立して行える.②乳幼児から成人までの気管内挿管,心マッサージ,輸液路の確保ができる.③内科・外科・小児科・産婦人科の救急症例の初診,診察,処置が一人でできる.④正常産が一人でできる.研修方法は①bed side teaching中心(on the job training)②グループ診療③徹底したPeer Reviewであった.
しかし,2年間では研修のvolumeに問題があり,更なる研修を積むために内科,外科,小児科,産婦人科,麻酔科の研修医たちはECFMGを受験し米国での更なる研修を行った.彼らは米国でそれぞれの専門医資格を取り,沖縄に帰国,米国の指導医に変わって研修指導者となり,いわゆる屋根瓦式研修が始まった.私が外科レジデント時代は消化器外科,胸部外科,小児外科,脳外科,泌尿器科,整形外科,外傷外科などをローテーションし基本からある程度応用までを身に付けるだけの症例数があった.しかし,時代とともに周辺に急性期病院が増え外科系患者が分散,一人の研修医の経験症例数も減っていった.また,general surgery研修を終えてsubspecialtyを目指す研修医が増加した.しかし,当院だけではその症例数を賄うことが困難で,そこで当院の伝統である米国への留学制度を活用して米国のhigh volume center でのgeneral surgery更にはsubspecialtyを目指し当院での不足分を補っている現状がある.これまでの海外のHigh Volume Centerでの研修修了者は①米国のresidency プログラム修了者は,外科(7名),内科(4),小児科(1),産婦人科(1)麻酔科(1)②米国でのclinical fellow ship修了者は,外科(5),内科(11),小児科(2),形成外科(3)③カナダ,オーストラリア,英国,台湾のclinical fellow ship修了者は,外科(2),内科(2),小児科(2),形成外科(1),泌尿器科(1)である.最近ではアジアにも目を向け,台湾あるいは本土のがんセンターなどで研鑽が積める環境を整えている.当院ではgeneral surgery+αの研修を行っているが一人前のsubspecialty(α)育成には症例数が少なく,海外,国内の施設を利用してlow volume centerの弱点を克服するように努めている.外科医を志すものは1例でも多くの手術を行いたい気持ちは共通と考える.

III.おわりに―若手医師が外科を希望しない原因は?―
いろいろな要因が考えられるが①修練期間が一定でない②従って,いつ一人前の外科医(専門医)になれるか,先が見えない③専門医として社会が認めてくれない(診療報酬に反映されない,専門医になっても給与が上がらないなど)などがよく言われていることである.そこで米国の外科研修制度を見ると違いがはっきりと見えてくる.米国では5年間のgeneral surgery研修後に専門医になるわけだが,専門医に認定されるためには5年間で最低850例の術者としての経験が要求される.わが国のそれと比較するとけた違いの経験数である.また,年収も研修医の時の5倍になると言われている.われわれは若手外科医が満足できる研修環境を提供できていないのは明らかである.解決するには一定期間で,良き指導医の基,多くの症例数を経験させる必要がある.米国ではgeneral surgery研修後は約85%がsubspecialistを希望すると言われている.当院でも同様であるが,若手外科医が満足できる研修環境は,当院の病床規模,症例数では困難なためhigh volume centerを活用する仕組みを作ってきた経緯がある.若手外科医が満足できる環境整備はまずは施設集約であろう.しかし,わが国の研修環境を見ると施設集約は一朝一夕には困難と考えられる.東京女子医科大学名誉教授小柳 仁先生も“私の医歴書”の中で,わが国の外科医のトレーニングの在り方として,日本では症例数が減少し,かつ手術施設が集約化されていない現状にある.アジアを含めた症例数が豊富な国に行って,研鑽を積むことも検討すべきと提言されている.

 
利益相反:なし

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