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日外会誌. 121(1): 120-122, 2020

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定期学術集会特別企画記録

第119回日本外科学会定期学術集会

特別企画(7)「医療安全―患者と医師が信頼しあえる外科医療を目指して」
 3.外科医療における患者第一の医療安全と臨床倫理のスキルとエッセンス

1) 宮崎大学医学部 外科学講座呼吸器乳腺外科学分野
2) 宮崎大学医学部 心臓血管外科学分野

綾部 貴典1) , 富田 雅樹1) , 前田 亮1) , 中村 都英2)

(2019年4月20日受付)



キーワード
医療安全, 臨床倫理, ノンテクニカルスキル, レジリエンス, インフォームド・コンセント

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I.はじめに
私は医療安全管理と臨床倫理部を専任した経験を通じて,医療事故の発生時に,患者第一に考える医療安全や臨床倫理のスキルが不足し,患者と医師の信頼関係が築けずに問題となる事例を散見してきた.「患者と医師が信頼し合える医療を良好に構築する」ために,医療安全と臨床倫理のエッセンスを抽出し,基本的スキルとして習得が望まれる.

II.外科医が習得すべき「手術以外の重要なスキル」
手術の知識・技術の習得は基本であるが,「手術以外のスキル」も重要であり,「医療安全と臨床倫理のスキルとエッセンス」をまとめた.
1)患者第一の視点で,術式選択,インフォームド・コンセント,手術安全対策,手術手順の標準化,定着化.
2)合併症の予見と対策,トラブルシューティング集積,合併症・インシデント報告による自己学習,医療安全的多職種チームM&Mカンファレンス,医療過誤・訴訟のリスク管理,問題解決手法,質改善・PDCAサイクルの持続的確立.
3)手術のテクニカルスキル,多職種外科チーム医療を支えるコミュニケーション,ノンテクニカルスキル(状況認識,意思決定,コミュニケーション,チームワーク,スピークアップ,フォロワーシップ,リーダーシップ,疲労管理,ストレス緩和).
4)失敗ではなく成功事例から学ぶという医療安全の視点(レジリエンス・エンジニアリング),Safety-Ⅰ(型,マニュアル,手順の遵守),Safety-Ⅱ(学習,調整,監視,予見).
5)臨床研究倫理,高難度新規医療技術を用いた医療,適応外治療に必要な病院組織としての倫理的プロセス.
6)倫理的問題,倫理的ジレンマ,倫理コンサルト,臨床倫理4分割法(医学的適応,患者の意向,QOL,周囲の状況).

III.インフォームド・コンセント(IC)
ICに関して,「医療法第1条の4,第2項」には,医師,歯科医師,薬剤師,看護師その他の医療の担い手は,医療を提供するに当たり,適切な説明を行い,医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない,とある.
ICの基本理念として,
1)ICとは,「医療従事者側から十分な説明がなされ,患者側がその説明を理解,納得した上で,自発的に選択・同意・拒否する」ことであり,患者の「自己決定権」を保障するものである.
2)ICの目的は,医療従事者側と患者側がお互いにコミュニケーションを深め,両者が共に協力し合うことによって信頼関係を築くことである.
3)ICは,患者側が過度に「権利」だけを主張することではなく,また医療従事者側が「同意書」を取得したことをもって責任を回避するためになされるものであってはならない.
医療者が患者に説明すべき情報は,逆に言えば,患者が医療者にたずねるべき情報である.1)病名や病状(予後などの経過予測を含む),2)治療に必要な検査の目的,内容,方法,3)治療・検査のリスク,予想される有害事象(学会ガイドライン,文献,合併症発生率,死亡率,リスク,自施設の発生頻度や治療成績),4)治療法や処置の成功の確率,5)代替の方法の有無,6)治療を拒否した場合の転帰,7)患者特有の臨床経過を踏まえた個別のリスク,について記載する.
説明・同意書は,1)二部準備し,一部は患者に渡し,一部はカルテに取り込む,2)説明したという記録,3)他職種からの記録(同席者が記載),が望ましい.どこで,誰が,誰に,何を説明したかを記録する.患者・家族と医師とのやりとりは,患者の発した言葉で記載する.患者と医師が信頼し合える医療を良好に構築するためには,看護師からの記述も重要である.

IV.合併症・インシデント報告による自己学習
合併症・インシデント報告の積極的活用は,合併症の予見や対策に役立ち,振り返ることで自己学習の効果がある.当院の外科医師報告インシデント事例(n=236,2007.2~2017.3)の分析から,レベル3b(患者影響度が高く濃厚な治療を必要)が全体の約40%と多く占めている.発生要因は,個人的振る舞い,合併症が多い.手術関連インシデント(n=84)は,予期せぬ事象,再手術,予期せぬ大量出血が多かった.

V.テクニカルスキルとノンテクニカルスキル
外科医の手術のテクニカルスキルは,知識・技術である.それ以外のスキルは,ノンテクニカルスキル(状況認識,意思決定,コミュニケーション,チームワーク,スピークアップ,フォロワーシップ,リーダーシップ,疲労管理,ストレス緩和)である.高いテクニカルスキルとノンテクニカルスキルを持ち合わせた外科医を目指すべきである.

VI.外科医療におけるレジリエンス・エンジニアリング
レジリエンス・エンジニアリングの基本概念は,外科医個人,手術チームが「うまくいっていることから学習すること」,「平時でも想定外の事態でも対応できること」,「アジャストメント(調整)をモニターすること」,「将来起こりうることを予測し先行的に対応すること(予見)」ができることである.Safety-Ⅰは失敗から学び失敗を減らす.手術手順書の作成,標準化,型を作り型を守る医療安全である.Safety-Ⅱは,成功から学び成功を増やす.うまくいっていることから学び,レジリエンス能力を高める新しい医療安全である.外科手術チームのレジリエンス力を高めて,手術業務・目標達成の脅威(想定外の危機的状況発生,大量出血)に対する対抗力(状況認識,調整,予見,臨機応変,意思決定)を高めて,「術中・術後の変化する状況に柔軟に対応して成功を導く能力」を身につけることが重要である.

VII.外科医療における臨床倫理のエッセンス
臨床研究に関する倫理事項,高難度新規医療技術を用いた医療,適応外治療を行う場合に,独善ではない倫理的プロセスを踏むことが重要である.臨床現場で発生する倫理的ジレンマ,倫理的問題の解決方法を知ることが重要である.多職種での倫理カンファレンスの開催,倫理コンサルトに対応する倫理チームの取り組みが重要である.診療科内または多職種チームカンファレンスでは,臨床倫理4分割法(図1)を用いると倫理的問題が見える化できる.臨床倫理4分割表は,医学的適応,患者の意向,QOL,周囲の状況について考えるツールであり,多職種チームで話し合いながら,埋めていく作業を通じて,倫理的に考えることが実践できる.

図01

VIII.おわりに
患者と医師が信頼し合える外科医療を確立するために,患者第一の視点で,医療安全と臨床倫理のスキルとエッセンスを学び,手術医療の質向上,改善の継続,実践が重要である.

 
利益相反:なし

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