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日外会誌. 121(1): 93-95, 2020

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定期学術集会特別企画記録

第119回日本外科学会定期学術集会

特別企画(6)「外科医にとっての働き方改革とは」
 2.医師の働き方改革~これからの外科医の働き方

社会医療法人ペガサス馬場記念病院 

馬場 武彦

(2019年4月20日受付)



キーワード
医師の働き方改革, 宿日直許可基準, 時間外労働の上限, タスクシフト, 外科医の意識改革

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I.はじめに
厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」の報告書が2019年3月に取りまとめられた.その内容は医師の健康確保と地域医療提供体制確保のバランスに配慮したものとなった.これは5年間の準備期間の後に2024年4月より施行される予定である.ある程度の自己犠牲はやむを得ないと考えられていた医師,とりわけ外科医の働き方を大きく変えるものと予想される.

II.時間外労働の上限水準
2024年4月から勤務医に適用される時間外労働の上限は休日労働を含めて原則年960時間となった(A.診療従事勤務医に2024年以降に適用される水準).これは一般労働者の時間外労働の上限が休日労働を除き年720時間であることを考えると概ね妥当な線だと思われる.また年360時間月45時間以内とされる通常の36協定の範囲を超えるのが一般労働者で年6カ月以内とされている制限が解除されていることや単月100時間超えの時間外労働も例外的に一定の条件のもとに認められる事を考えると,現実に即した妥当なものと言えよう.宿日直許可基準のもとに行われる当直はこの時間には含まれない.
一方,例外的に地域医療提供体制の確保の観点から年1,860時間の上限が一部の医療機関に条件付きで暫定的に認められることとなった(B.地域医療確保暫定特例水準).対象となる医療機関は以下の通りである.①三次救急医療機関 ②二次救急医療機関かつ「年間救急車受入台数1,000台以上または年間での夜間・休日・時間外入院件数500件以上」かつ「医療計画において5疾病5事業の確保のために必要な役割を担うと位置付けられた医療機関」 ③在宅医療において特に積極的な役割を担う医療機関 ④公共性と不確実性が強く働くものとして,都道府県知事が地域医療の確保のために必要と認める医療機関(例)精神科救急に対応する医療機関(特に患者が集中するもの),小児救急のみを提供する医療機関,へき地において中核的な役割を果たす医療機関.
追加的健康確保措置として28時間以内の連続勤務時間制限や9時間以上のインターバル確保(宿直明けは18時間以上)と,これらが確保できなかった場合の代償休息が義務付けられた.またこの特例水準は2034年3月を目標に終了する予定とされている.またこの水準の医療機関は都道府県に対して勤務医師労働時間短縮計画を毎年提出されることが求められる.
研修医や専攻医に対しては集中的技能向上水準が認められることとなった(C-1).B水準と同じ1,860時間の時間外勤務が認められることとなったが,これについても2034年3月までに短縮を目指すこととなった.これにより研鑽を積みたい研修医や専攻医は多くの研修時間を認められることとなった.ただし,医療機関は研修医や専攻医の募集にあたり自施設の時間外勤務の許可水準を公表する決まりとなるので,研修医の応募状況によっては勤務時間の長い病院が自然淘汰される可能性もあると思われる.また6年目以上の医師にあっても,例えばロボット手術などの特殊技能を短期間に習得したいと希望する医師に対してはこの集中的技能向上水準を認められることとなった(C-2).

III.応召義務・研鑽・宿日直許可基準について
今回の一連の検討の中で応召義務に対する考え方の整理,研鑽の切り分け,宿日直許可基準の現代的解釈が行われたのは医療界にとって大きな収穫であった.
応召義務は訓示的義務であり,罰則規定はなく,罰則規定のある労働基準法で定められた義務に優先するものではない.もちろん労働基準法も,そこにどうしても救わなければならない生命がある時になされる常識的判断に優先するものでは無い.
研鑽と労働を一律に切り分ける事は困難である.しかしながら勤務医とその上司の双方が指示命令下にないと認める文書があれば,たとえ医療機関内に勤務医がいたとしても労働時間ではなく自己研鑽であると判断できると明示された.これは学会出張などにも適用され,学会費や出張旅費の支給はこの判断に影響しないとされる.このことにより従来タイムカードでしか判断できなかった医師の労働と研鑽の切り分けが可能となった.
宿日直許可基準の現代的解釈は特に二次救急医療機関に影響が大きい.1949年発令の医師看護師等の宿直許可基準においては,夜間に従事する業務は,一般の宿直業務以外に,病院の定時巡回,異常事態の報告,少数の要注意患者の定時検脈,検温等,特殊の措置を必要としない軽度の,または短時間の業務に限ること(応急患者の診療または入院,患者の死亡,出産等があり,昼間と同態様の労働に従事することが常態であるようなものは許可しない.)とされ,従来の解釈ではいわゆる寝当直しかこの基準に合致しないとする解釈もあった.現実の医療機関における当直は①いわゆる寝当直②二次救急医療機関などにみられる断続的診療パターン③三次救急医療機関などにみられる昼間と同態様の労働パターンの三つに分類できる.①は従来より宿日直許可基準に合致し③は誰が判断しても宿日直許可基準に合致せず拘束時間はすべて労働時間と考えられる.今回の解釈見直しでは許可対象である「特殊の措置を必要としない軽度の,または短時間の業務」の例示が明確化して示された.即ち,病棟当直において,少数の要注意患者の状態の変動への対応について,問診等による診察,看護師等他職種に対する指示,確認を行うことと,外来患者の来院が通常予想されない休日・夜間(例えば非輪番日であるなど)において,少数の軽症の外来患者や,かかりつけ患者の状態の変動について,問診等による診察,看護師等他職種に対する指示,確認を行うことである.また,休日・夜間に結果的に入院となるような対応が生じる場合があっても,「昼間と同態様の労働に従事することが稀」であれば,宿日直許可は取り消さないとはっきり示された.

IV.おわりに―これからの外科医の働き方―
三次救急医療機関や大学病院などの特定機能病院は当面はB水準を選択するであろうと思われる.この場合シフトを組むなど若干の勤務体制の変更が必要となる.この場合大学病院が人員増を図れば,地域医療に影響が出る可能性がある.それに対して二次救急病院を含む多くの病院はA水準を選択することが想定される.この場合,宿日直許可基準を獲得することが必須であり,病院によっては当直医の増員等が必要となる.兼業の労働時間も総労働時間に通算されることから,大学病院所属の医師のバイト先は宿日直許可基準を持つ病院が主流となることが想像される.それでも大学病院が所属医師の兼業を制限する場合は地域医療に大きな混乱をもたらす恐れがある.
外科医のみで構成される外科チームはスリム化せざるを得ず,従来型の師弟関係は変化を余儀なくされる.一方,多職種チームは強化される.今回の医師の働き方改革の議論の中でタスクシェアリング・タスクシフティングが大きく注目された.医師事務作業補助者のさらなる活用をはじめ,事務作業を中心に今後もタスクシフティングは大きく進むと思われる.総労働人数に占めるコメディカルの人数は一般病院で相対的に大きく,大学病院では少ない.今後,大学病院を中心にコメディカルの活用がさらに必要になると思われる.特定看護師については今後パッケージ化が期待されることからさらに養成や活用が進むと思われるが,患者との信頼関係の変化や訴訟リスクの増大などの可能性も否定できない.今後,外科医の意識改革が必要と思われる.

 
利益相反:なし

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