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日外会誌. 121(1): 70-74, 2020

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手術のtips and pitfalls

下部直腸癌に対するtaTMEのtips and pitfalls

札幌医科大学 消化器・総合,乳腺・内分泌外科

竹政 伊知朗 , 西舘 敏彦



キーワード
直腸癌, TME, CRM, taTME, 経肛門的アプローチ

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I.はじめに
下部直腸癌に対する標準術式は,TME(total mesorectal excision)完遂によりCRM(circumferential resection margin),DRM(distal resection margin)陰性を確保することである.しかし,米国の大規模癌レジストリー解析では病期が上がるにつれCRM陽性率は20%まで高くなることが示され,これまでの直腸癌手術に対する問題点が指摘されている.近年,腹腔鏡機器の進歩により骨盤微細解剖の理解が飛躍的に向上し,直腸癌領域での腹腔鏡手術は急速に普及してきた.国内外の臨床試験では,腹腔鏡手術は開腹手術と比較して術中合併症や出血量が有意に軽減し,長期的にもほぼ同等の成績が示されるようになり,すでに国内では直腸癌手術の半数以上が腹腔鏡で実施されている.しかし,TME遵守率とCRM陰性率を主要評価項目とした最近の二つの第Ⅲ相試験では,開腹手術に対する非劣性は証明されなかった.これは通常の直線的な腹腔鏡機器を用いた骨盤内操作が依然として高難度であることを示している1)
taTME(transanal TME)は,TMEを経肛門的に逆行性に施行する手術方法として2010年に初めて報告され,直腸癌手術療法の選択枝の一つとして世界的にひろがっている.taTMEによる経肛門的アプローチでは,骨盤深部での良好な視野確保と操作性が得られることで,これまでの問題点の克服が期待されている2).現在,国際的な大規模症例登録によりTME遵守率,CRM/DRM陰性率を含めたtaTMEの評価がすすめられている.さらには,3次元画像と多関節鉗子によるぶれの少ないロボット支援手術を経肛門的手技に組み入れ,より精緻に切除する試みも報告されるようになってきた.一方,taTMEには術者が経肛門的な骨盤解剖に不慣れであることに加え,セッティング,デバイスを含めた技術的なpitfallがある.確実なpurse string suture,直腸前壁剥離での直腸尿道筋の同定・切離,前立腺同定,尿道損傷回避,直腸後壁剥離での直腸後方靭帯の同定・切離,直腸固有筋膜同定,直腸側方剥離におけるS3/4〜NVB(neurovascular bundle)の同定などがポイントで,cadaverなどを用いた段階的なトレーニングが重要とされている3).本稿では,直腸癌に対するtaTMEのコツとpitfallについて概要する.

 
利益相反:なし

図1図2図3図4図5図6図7図8

図01図02図03図04図05図06図07図08

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文献
1) 竹政 伊知朗:『消化器外科専門医の心得』直腸癌に対する低位前方切除術.消化器外科専門医の心得(in press),2019.
2) 西舘 敏彦,竹政 伊知朗,沖田 憲司,他:【直腸癌に対する経肛門アプローチのすべて】経肛門的直腸間膜全切除術(taTME).手術,71(12):1631-1638,2017.
3) 西舘 敏彦,竹政 伊知朗,沖田 憲司,他:【これぞ達人の技! 最新の消化器内視鏡外科手術】結腸・直腸・肛門の鏡視下手術 経肛門TME.消外,41(5):694-703,2018.

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