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日外会誌. 121(1): 8-9, 2020

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若手外科医の声

海外留学の勧め

広島大学 消化器・移植外科

谷峰 直樹

[平成17(2005)年卒]

内容要旨
私にとって研究留学は,外科医人生においてかけがえのない経験になりました.今,留学を検討,または考えてもいない先生方の背中を押せる一助となればと思い,自身の留学で感じた諸事を述べさせていただきます.

キーワード
海外留学, 基礎研究, ライフワークバランス, 臓器移植

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I.はじめに
医師になって14年目,自分を振り返ることのできる執筆の機会をいただき,大変ありがたく思っております.筆者は消化器外科医としての研修後,広島大学大学院で癌免疫をテーマに学位を修了すると同時に臓器移植医療に関わる機会を得ました.免疫学の見聞を深めたいと,米国Massachusetts General Hospital(MGH), Center for Transplantation Sciences(CTS)で研究留学をする機会に恵まれ,執筆現在は明日の外科医療に自らの手で貢献したいという思いをもって基礎研究に取り組んでいます.CTSは移植免疫寛容を目指した研究グループであり,私は幸運にもT細胞免疫の大家であるLaurence Turka先生およびSurgeon Scientistとして基礎研究に基づいた多くの臨床研究を牽引するJames Markmann先生という二人の優れた指導者に師事する機会を得ました.研究留学を通し,外科医にとっての基礎研究について,そして医療についても新たな考えに至ることができました.自身の経験から他の外科医にも是非海外留学を経験していただきたいと思っております.私の経験を共有させていただくことで,海外留学をしたいと思っていただけるきっかけになれば幸いです.

II.外科医による基礎研究
私は留学に際し,新しいテーマに取り組む機会を与えられました.その分野について把握するまでに時間と労力を要した分,大変勉強になりました.しかし,この経験は卓越したラボのメンバーの支えと,私が臨床を完全に離れ,研究に没頭できる留学環境があって初めて取り組むことができたように思います.すべての外科医が基礎研究を生涯継続することが必須であるとは思いませんが,外科医が基礎研究者としての姿勢を持つことの意義はとても大きく,医学の発展だけでなく,日々の臨床的問題を解決する上でも大きな力であることは間違いないと確信しています.私にとって,自然に手術や臨床から距離を置き,研究に専念できる環境として,留学は基礎研究と向き合う大変意義のある時間だったと感じます.一方で,基礎研究を続けるには資金や継続的な成果が必要で,研究一筋にキャリアをかけてきた研究者と同じ土俵でやっていては,研究に没頭せずには対等以上の成果は得られるはずはないと感じたのも事実です.まさしく日進月歩で進む領域で,新たな知見を創出するのは容易ではありません.恩師である広島大学 大段秀樹教授が“外科医だからこそできる研究がある”と日頃より言われていたこと,外科医の強みはまさしく臨床そのものであり,またその際に得られる臨床検体であるということを身に沁みて感じています.基礎に根差した臨床研究を行い,質の高い臨床検体を収集することで,共同研究が生まれ,技術を持った共同研究者が集う.外科医が担う,この研究は臨床からしかアプローチすることのできない機構を明らかにするはずです.“基礎に根差した臨床研究”を行うための力を養い,人間関係を構築する,それが私にとっての留学の意義であると感じました.外科医の特権を生かしつつ周りを巻きこめる,そんな研究を近い将来に描きながら日々のベンチワークを行っている次第です.

III.外科医の診療とライフワークバランス
私にとって海外留学はライフワークバランスを見つめ直すよい機会でした.全く違う環境に身をおくことで,研修医の頃より自然と身についていたワークスタイルを改善する必要があると感じました.留学中は外科医の身分も曖昧なため,多くの非医療従事者の方と患者・医師の関係を離れて話すことができました.“患者は医師が身を粉にして働くことに感謝はすれど,望んではいない”,“過度の労働でパフォーマンスが落ちる方が,手術を受ける側からすれば心配だ”という言葉が印象的でした.病棟勤務していた頃は“先生いつ休んでいるのですか”という言葉とは裏腹に,常にそばにいることを期待されていると勝手に思いこんでいたように思います.今振り返れば,“そんな疲れた顔をしていたら,こっちが心配です.”といわれていたように思います.医師業務を日本と米国で比較することに意味はないですが,“チームとしての取り組み”の意識をより高くもち,ワークスタイルにオンオフをつけ,より生産性のある個人,ひいてはチームを作り上げていくべきだと考えます.

IV.日本の臓器移植医療について
研究,臨床を問わず留学を経験された先生方が海外留学の一つの意義に“異文化に触れること”を挙げられると思います.私にとって1番のカルチャーショックはまさしく臨床の現場でした.日本で臓器移植医療が停滞していることは人口100万当たりの臓器提供数(日本1~1.5人,欧米諸国20~35人)等の数字として認識していました.MGHは米国で症例の多い施設ではないにもかかわらず,時には週10件を超える脳死移植が単一施設で行われている現実は,私の認識を刷新したといっても過言ではありません.カンファレンス,臓器摘出への同行などを通して見る現場は,全く違う医療を見ているようでした.臓器移植が実践医療となって50年,技術的にも学問的にも,多くの日本人外科医の先輩方が発展に貢献されています.にもかかわらず,日本に生まれたことで臓器移植の恩恵を受けられる機会がここまで差があっていい訳がない,と思うには十分な体験でした.外科医として移植医療に挑戦したいと思うとともに,一医療人として欧米諸国と同等にこの医療を届ける体制を1日も早く整えなければならないと強く感じています.

V.おわりに
海外留学経験は様々で何を得るかは比べることはできませんが,多くの外科医が違う経験を持ち寄ることで,より良い外科医療を提供できることを願っています.この場を借りて,留学に際しご助言・ご指導いただいた大段秀樹教授をはじめ,関係者各位に感謝申し上げるとともに,留学を通し得たものを形にできるよう精進していきたいと改めて思う次第です.

 
利益相反:なし

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