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日外会誌. 123(5): 430-434, 2022


会員のための企画

福島原発事故後10年を経過して

福島県立医科大学 医学部甲状腺治療学講座

鈴木 眞一

内容要旨
2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故後の放射線の健康影響を危惧し甲状腺検査が実施されすでに10年を経ている.今までに経験のなかった大規模検査を立ち上げ実施した経緯,甲状腺検査の進捗状況,過剰診断抑制を盛り込んだ精査基準などさらに,発見された甲状腺癌の特徴について述べる.
平均年齢は17.8歳で男女比は1:1.8であった.平均腫瘍径14mm,術前リンパ節転移陽性例は22.4%にもかかわらず術後は77.6%と増加しその大半が気管周囲リンパ節であった.術後の被膜外浸潤例が39%と高率であった.遠隔転移は2.4%であった.術式は全摘8.8%,片葉切除91.2%であった.98.4%が乳頭癌でその大半が古典型であった.また遺伝子変異では69%がBRAF変異で,再配列異常は少なかった.RET/PTC3や充実型亜型は少なくチェルノブイリとは全く異なる結果であった.地域線量や個人の外部被ばく線量と悪性ないし悪性疑い結節の発見率には差がなく,発症年齢も放射線の影響の強いより若年では認められず,非被曝小児甲状腺癌好発年齢に認められた.ここからも現時点までは明らかに放射線の影響による甲状腺癌増加の傾向は認められていない.

キーワード
原発事故, 放射線障害, 甲状腺癌, 甲状腺超音波検査, BRAF変異


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