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日外会誌. 119(3): 259-265, 2018


特集

外科医のがん研究

2.食道―逆流性食道炎から食道発がんへの進展機序とその抑制―

1) 金沢大学附属病院 消化器・腫瘍・再生外科
2) 富山市民病院 外科
3) 金沢大学 がん進展制御研究所
4) 芳珠記念病院 
5) Johns Hopkins University Department of Surgery

宮下 知治1)5) , 藤村 隆2) , 大島 正伸3) , 武居 亮平1) , 松井 大輔1) , 佐々木 省三2) , 尾山 勝信1) , 西島 弘二1) , 三輪 晃一4) , John W Harmon5) , 太田 哲生1)

内容要旨
食道がんは病理組織学的に扁平上皮がんと腺がんに大別されるが,わが国では他のアジア諸国と同様に扁平上皮がんの頻度が9割を占めている.一方,欧米では逆流性食道炎患者の増加とともにBarrett食道および食道腺がんの罹患率が上昇している.本邦ではBarrett食道や食道腺がんの頻度は未だ低率であるが,食生活の欧米化や中心性肥満の増加,さらにはHelicobacter pylori感染者の減少とともに今後増加することが予想される.実際,日本食道学会の集計でも食道腺がんの頻度は増加傾向にあり,その予防および治療法の開発は急務である.
これまでBarrett食道の成因に関しては胃酸の逆流と考えられてきた.一方,当教室ではラットを用いた十二指腸液の食道逆流モデルにて発がん剤を使用することなくBarrett食道および食道腺がんが発生することを報告し,十二指腸液の逆流がより強い影響を与えることを報告してきた.現在では臨床的にも十二指腸液の逆流がより重度の食道粘膜障害を引き起こすことが明らかにされている.さらにわれわれはこの発がんモデルが病理組織学的にヒトと同じInflammation-Metaplasia-Adenocarcinoma sequenceを辿ることや,発生した腫瘍がヒトの食道がんと類似した特徴を有していること,発がんに至る過程が慢性持続性炎症により免疫寛容状態に陥っている可能性があることなどを明らかにしてきた.この発がんモデルは食道がん発生機序を解明する上でも極めて有用なモデルと考えられる.

キーワード
逆流性食道炎, Barrett食道, 食道発がん, 微小環境, 発がん予防


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