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日外会誌. 117(5): 404-408, 2016


会員のための企画

末梢動脈疾患(PAD)全国アンケート調査の結果から見えてきたもの

東京慈恵会医科大学 外科学講座

大木 隆生

内容要旨
閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患,PAD)の治療は歴史的に血管外科が主診療科だったが,近年,この分野にカテーテルの扱いには長けているもののPADの知識が乏しい循環器内科医が参入してきた.時を同じくして不適切と思われる医療行為が散見されるようになったので,日本血管外科学会理事会の承認を得て「全国PAD治療の実態調査」を行った結果,不適切な侵襲的PAD治療が少なからず存在する実態が判明した.多くの本来侵襲的治療が不要な無症候性患者に安易あるいは無謀なステント治療が行われ,その結果,下肢切断や術死に至った症例を確認し,この実態を公表することで日本血管外科学会としての自浄作用を発揮した.こうした診療行為は例えば過剰診療,内視鏡の乱用,適応の甘い外科手術,無理な胸腔・腹腔鏡下手術など他の分野でも存在するのかもしれない.近年,多くの学会で企業と医師の経済的関係に基づく利益相反を監視しているが,ほぼ全ての臨床医が有していて,かつ,より影響の強い利益相反は,より新しい,より多くの治療を行う事でアカデミックキャリアを形成し,生計を立てているという事実である.しかし,この利益相反と経過良好な不要治療が問われることはほぼ皆無である.われわれの調査のように自浄作用を発揮しようとすると他診療科との軋轢が生じるが,学会が社会から信頼され,その存在意義を発揮するためには全ての学会がこうした活動を積極的に行っても良いかもしれない.

キーワード
不適切治療, 過剰診療, PAD, ステント, 自浄作用


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