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日外会誌. 113(3): 309-313, 2012
会員のための企画
福島原発事故への医療対応最前線
チェルノブイリの教訓から福島原発事故を考える
I.内容要旨
チェルノブイリの教訓は,東西冷戦構造の中で事故直後の情報統制に加え,住民対応が適切に実行されず,放射性降下物による広範囲な環境汚染とそれに伴う食物連鎖,とりわけ放射性ヨウ素に汚染された牛乳摂取による甲状腺内部被ばくが,その後の小児甲状腺がんの激増をもたらしたことである.さらに精神心理的·社会的影響の甚大さが報告されている.
チェルノブイリの教訓は,その後の原発事故対策に活かされ,事故直後の安定ヨウ素剤服用による甲状腺ブロックや安全対策,特に汚染原乳の廃棄や食の安全モニタリングに反映されてきた.しかし,今回の福島原発事故は,原発安全神話の中で放射線教育の欠落と医療従事者の準備不足や体制の不備が露呈した.規制防護の基準と健康リスク管理が十分に理解されず,偏見や差別,そして風評被害の拡大が懸念されている.現存被ばく状況が続く地域では,住民の被ばく低減阻止に関わる安全と安心への説明に向けた努力が不可欠である.その為に,福島県では全県民を対象に被ばく線量の推計を目的とした基本調査と,個別の詳細調査という県民健康管理調査事業が開始されている.
一方,災害医療の体制整備が進む中で,緊急被ばく医療を特殊な位置づけに狭めることなく,救命救急のいのちを守る視点からの包括的な取組みが必要である.放射線健康リスク管理に関する教育訓練の不備を是正し,医学教育や関連する研究分野における早急な改善が求められる.
キーワード
チェルノブイリ, 福島原発事故, 甲状腺がん, 精神心理·社会影響, 県民健康管理調査事業
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