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日外会誌. 112(2): 122-129, 2011


会員のための企画

消化器癌に対する分子標的治療の動向

肝細胞癌

近畿大学 消化器内科学

工藤 正俊

I.内容要旨
肝細胞癌に対する分子標的薬ソラフェニブが2009年5月,日本でも承認となった.ソラフェニブはMAP kinaseの下流のRAFのチロシンキナーゼを阻害して増殖抑制効果を発揮するとともにVEGF,PDGFなどの血管新生に関わる受容体型のチロシンキナーゼを阻害するmulti kinase inhibitorである.日本においてはChild-Pugh Aの肝機能で局所治療が適応とならない高度進行癌(脈管浸潤,遠隔転移を伴う肝癌),及びTACEや動注化学療法が不応となった患者に対してのみ,その適応が限られている.しかしながらまた,ソラフェニブに抵抗性を示すprimary resistanceの症例や使用中に効果が減弱するsecondary resistanceの症例も存在するため,現在second lineの多くの分子標的薬の国際共同治験が日本においても進行中である.また,現在は推奨されていないものの,TACEや動注化学療法との併用の臨床試験も進行中である.切除やラジオ波後のadjubantとしての臨床試験も既に2010年10月に1,100例の症例が登録を終了し,現在そのイベント発生の観察時期に入っており,2012年にはその結果が判明する見込みである(STORM試験).SHARP Studyのサブ解析によりステージの早い肝癌に対するソラフェニブ介入の方がより生存率が良いといった事実も報告されている.このことより従来の標準的治療とソラフェニブとの組み合わせ治療によって肝細胞癌の予後は劇的に延長する可能性があるものと考えられる.

キーワード
分子標的治療, ソラフェニブ, シグナル伝達系, 肝癌診療アルゴリズム, 血管新生阻害薬


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