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日外会誌. 110(6): 343-347, 2009


特集

胸膜中皮腫の治療法の動向

6.胸膜肺全摘術の位置付けと問題点

東邦大学医療センター大森病院 呼吸器外科

高木 啓吾

I.内容要旨
悪性胸膜中皮腫に対する胸膜肺全摘術は,姑息的切除から肉眼的根治切除を目指した方向に収束してきているが,手術単独での成績向上には限界がある.
現在の問題点は,根治治療をめざした本術式の適応,多発する合併症予防対策,術前導入化学療法の意義,術後放射線治療を含む補助療法の選択などである.一方で本術式の治療成績は,胸膜剥離術(pleurectomy)の成績に近似しており,これを凌駕するには,安全できめ細かな根治術式の確立と合併症対策が目標となる.本稿では,過去の治療成績をレビューして,集学的治療の中心的役割を演ずる本術式の意義を検討してみた.
現時点で本術式の予後が期待できるのは,肉眼的完全切除可能な臨床病期I期,II期,III期の上皮型であり,これに周術期補助療法がどこまで施行できるかで予後が左右される.術前導入化学療法によって腫瘍縮小をはかった上で,熟練外科医による胸膜肺全摘術と術後放射線治療を組み合わせたtrimodality therapyは,理想的な集学的治療といえるが,この3段階の治療を完結できる症例がどれほど集積できるかが問題である.
早期発見,早期治療が何よりも重要であることに論を待たないが,上皮型の自然経過(natural history)は長期にわたる例もあり,各種治療成績評価は慎重でなくてはならない.今後,多施設間の症例集積ときめ細かな分析が,治療成績向上に直結するものと信じている.

キーワード
悪性胸膜中皮腫, 胸膜肺全摘術, 胸膜剥皮術, 集学的治療, 予後


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