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日外会誌. 103(7): 529-535, 2002


特集

Damage Control Surgery

9.腹部コンパ一トメント症候群の病態生理とそれを回避するための腹壁再建

東京医科大学 救急医学

行岡 哲男 , 村岡 麻樹 , 金井 尚之

I.内容要旨
ダメージコントロール手術(DCS)と腹部コンパートメント症候群(ACS)の概念は伴に深く関りながら発展してきた.ACSの基本病態は腹圧上昇である.腹圧上昇により横隔膜は圧迫され,肺の換気面積が減少し呼吸機能は低下する.腎臓の圧迫では腎血流が低下し尿量が減少する.さらに腹圧上昇により,心臓への静脈還流が抑制され,前負荷が減少し同時に,抵抗血管の圧迫で末梢血管抵抗が上昇し後負荷が上昇する.結果,心拍出量は低下し循環動態が不安定となる.DCSを要する症例では,大量の細胞外液補充液が輸液され膠浸透圧は低下し,腸管は再灌流障害の危険にさらされ,これらは腸管浮腫を助長する.腹腔内や後腹膜の血腫は腹圧上昇の因子となり,これら全てがACS発生の原因となる.
腹圧の評価には膀胱内圧測定が簡便である.膀胱内圧が10~15mmHg(grade I)になると生理学的指標の変化が確認されるが,直ちに減圧処置は必要でない.15~25mmHg(grade II)では,尿量減少,気道内圧上昇等が確認されたら減圧処置を行う.膀胱内圧が25~35mmHg(grade IV)になればほとんどの症例で減圧が必要であり,35mmHg(grade V)以上では直ちに減圧術を行う.DCS症例で膀胱内圧を測定し経過観察した場合,およそ1/3の症例でACSが確認されている.腹壁開放により腹圧は下がり,生理学的指標は改善する.しかし,この改善は,救命率の向上に直ぐに結びつくわけではない.これは,ACSにおける腹圧制御の重要性と同時に,腹圧上昇以外の病態の存在を示唆するものである.ACSでは,サイトカイン高値や好中球活性の上昇という生物学的反応も惹起される.この反応も多臓器不全へと病状を悪化させる重要な因子と考えられる.
開放した腹壁の管理には,プラスチック輸液バックを開き,腸管を広くカバーするように腹腔内に広げ腹壁は輸液チューブを通し,これを結ぶようにして開放創を寄せる方法がある.緊急時に安価で簡便に行える方法として実施を考慮されるべきものと思われる.

キーワード
腹部コンパートメント症候群, ダメージコントロール手術, 腹腔内圧

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