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日外会誌. 103(3): 314-317, 2002


特集

創造と調和-Creativeness and Cooperation-

Ⅱ.外科医を取りまく諸問題
3.外科領域におけるセーフティー・マネジメントはどう図られるべきか

東京医科大学 外科第1講座

加藤 治文

I.内容要旨
Institute of Medicine(US)の “To Err is Human,Building a Safer Health System” は,多方面に衝撃を与えた.同報告書の医療上のエラーに起因する死亡数(medical-errors-related deaths)が年間44,000~98,000という推計が正しいとすれば,日本にも相当数が類推されるからである.
医療事故や医事紛争の増加傾向を受け,近年の医療安全管理は,エラーの過程や構造を心理学や組織工学等の研究成果も受容しつつ,明白な事実に基づく厳密な方法で分析し,またその原因究明を能力資質等の個人的次元よりも協業や分業,組織や体制などのシステムの次元を中心に行い,対策を事後処理型から事前予防型へと転換し,医療機関の内生的領域から社会医療制度などの外生的領域まで含めた総合的な対策を指向している.
一方,医療事故訴訟判決でその9割は「医師の知識・技術の未熟」が原因とされており,日本医師会の医療賠償保険調査でも「医療過誤を繰り返す者がいる」との報告がある.被害者側からは,これは,職能不足の者を強制的に再教育ないし排除する仕組みがないことによる「欠陥」医師の「合法的」診療行為の結果であり,医療の質の不十分な管理体制が事故を頻発するような医療水準の医師・施設・技術を判別,是正,排除できずに事故発生の増加を招来している,との厳しい批判がある.
医療の裁量部分と「医療の孕む本源的な危険」や「過誤・未熟」との腑分けは難しく,個人技中心の医療は,チーム医療の中で評価不能・判断停止の状態を生み出し,異常事態の早期発見,早期対処の支障ともなりかねない.現在,各学会や厚生労働省研究班では,EBMの手法や診療ガイドラインが整備されつつある.またクリニカル・パスウェイの導入は,診療チームが情報を共有し職種に応じた安全管理の点検を恒常的に行うことを意味し,患者側からの医療チェックシステムの稼動も過誤を防止し,安全性を高める意義がある.
Agency for Healthcare Research and Quality (U.S.Department of Health and Human Services)は,“Making Health Care Safer” を刊行し,医療の安全に関わる対策を網羅的に取り上げ,EBMを用いて厳密に検証した結果を発表している.医療安全対策の実践,その実証的科学的な検証,評価を行うことは喫緊の課題となっている.もはや医療に携わる者は “to forgive Devine” などと安閑としてはいられない.

キーワード
インシデント, アクシデント, 診療情報の開示, インフォームド・コンセント, セカンド・オピーニオン

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