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日外会誌. 101(12): 833-839, 2000


特集

臓器別にみた外科手術の変遷・歴史

4. 乳癌

東海大学 医学部外科

田島 知郎

I.内容要旨
19世紀末に確立され,局所再発率の驚異的な改善をもたらし,治癒を目指し得るものとなったHalsted術式は,孫弟子のHaagensenに引き継がれて完成度を増し,癌根治手術モデルとして世界に影響した.その後,Halstedianの考え方は超根治手術・拡大リンパ節郭清の試みにつながったが,Halsted,Haagensenともに拡大術式には消極的であった.現在,定乳切と拡大乳切の施行頻度は両術式を合わせても数%以下に減少し,主流は胸筋温存乳房切除術と工夫の続く乳房温存術式とに変わった.センチネルリンパ節生検は乳癌手術縮小化のための大きな話題で,徹底した腋窩リンパ節郭清によるリンパ浮腫などの発生率が高いわが国でこそ,位置付けが急がれる.
術式変遷の正しい理解には,症例分布の時代的考察が不可欠である.T3病変以上が主であったVolkmann,Halstedの時代に遡る乳房全摘の考え方は,Halsted-Haagensen流派による根治手術の根幹であり続けて,拘泥された.術式が大きく変遷するのは1970年以降で,段階的な縮小化が進み,有効性が認識された補助療法が術式にも影響するようになったが,乳癌は経過が長いので,比較的早期の癌で検証された治療法の適応拡大には十分な注意が必要である.全身病としての治療を強調したFisherは,「乳癌全例に微小転移がある」とは言明していない.
乳癌多様性の認識はTNM以外の予後~治療効果予測因子を加味して最適な治療法をマッチングさせる必要性を示唆し,この個別化の指標には外科医のきめ細かい観察力,五感にも期待が大きい.手術療法は乳癌を発生した個体を全体的に治療する構想の一部分に過ぎないが,補助療法の有効性への期待が手術による局所根治性を損なわせてはなるまい.
華岡青洲の業績を除き,欧米にリードされ続けてきた乳癌手術の歴史が実感される.

キーワード
全身病, 乳房切除術, リンパ節郭清, Halsted, Fisher

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