日外会誌. 100(8): 506-512, 1999


特集

大動脈瘤に対するステント人工血管内挿術

9.ステントグラフト治療の将来

横浜市立大学 医学部第1外科

近藤 治郎 , 井元 清隆 , 鈴木 伸一

I.内容要旨
Parodiらにより臨床応用されたstent-graftによる血管内治療は,通常の手術に比べて侵襲度が低いことから,大いに注目を浴びている.最初はhigt risk患者に行われていたが,次第に適応を拡大し用いられるようになっている.さらに,その有用性から大動脈解離を含めた胸部大動脈瘤にも用いられるようになっている.しかし,未だ遠隔成績はでておらず,本来の目的の評価は出ていない.現在までの文献例と自験例をもとに本法の将来について考察した.本法は大動脈瘤中枢・末梢の拡張していない大動脈内にステントグラフトを留置して大動脈血流を維持しつつ大動脈瘤部をexclusionし,瘤拡大・破裂を防止する方法である.完全に瘤部の血流が遮断されれば瘤内圧は降下し血栓化され破裂をまぬがれる.術時に完全に瘤内血流を中枢・末梢のステント固定部や分枝から遮断できないことがある(primary endoleak).これらは術時に追加処置を行えば解決出来る.しかし,術時完全にexclusionされていたものが,種々な理由で遠隔期にendoleakをおこすことがあり,これらに対する問題は,本法の適応拡大に制約が加わる.腹部大動脈瘤に対しては多施設でのprospective studyがあり,従来の手術と比較しているが,出血量が少なく,ICU滞在,入院日数が短く,全身的合併症発生率は低いものの死亡率には差がない.これらのことから腹部大動脈瘤では従来の手術耐術例の遠隔成績は安定しており,現在のところhigh risk症例に限って適応とすべきであると考える.胸部大動脈瘤は未だ本法の経験が少なく,さらなる症例の積み重ねが必要であるが,従来の手術は侵襲度が高いことから解離を含め限局的な病変には有用な術式となりうると考えている.いずれにしても大動脈瘤患者は高齢者で多くの臓器不全が併存しており,低侵襲な本法は大いに魅力があり,さらに研究をすすめていきたい.

キーワード
stent graft, aortic aneurysm, exclusion of aneurysmal sac, endoleak, future prospective

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。