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日外会誌. 99(2): 110-112, 1998


その他

臓器移植-21世紀への羽ばたき-

東京女子医科大学名誉教授 

太田 和夫

I.内容要旨
臓器移植の研究は1902年にUllmannが行ったイヌの腎移植の報告をもって鏑矢とする.わが国では1910年に山内半作がイヌおよびネコを用いて実験し,第11回外科学会に報告している.1960年代に入ると免疫抑制剤が開発されたため臨床応用が普及したが,なお生着率は満足すべきものではなかった.1980年代に入るとシクロスポリンが開発され,成績も向上し,合併症による死亡も減少してきた.このような成果をもたらした要素を分析すれば,(1)強力な特異性の高い免疫抑制剤の開発,(2)拒絶反応の早期発見,(3)周辺薬剤の進歩,(4)各種の治療技術の開発,(5)経験の積み重ね,ICU管理の向上などであり,これらの中でも特にシクロスポリン,タクロリムスなどの新しい維持免疫抑制剤の登場,OKT-3,グスペリムスなど拒絶反応治療薬の開発などが大きく貢献している.またCMV感染症の早期発見に有効なアンチゲネミア法の実用化,ならびにCMV感染症に有効なガンシクロビルの開発などが特に威力を示した.
今後の問題としては脳死者よりの臓器移植を実現させることが,わが国における特殊な問題として残されている.これについては昨年の10月16日に臓器移植法が施行され,ドナーカードの配布が始まったが,これと平行して一般の人々の臓器提供に対する啓発活動を推進して行かなければならない.
一方,免疫抑制面では薬剤を用いずに半永久的な生着を可能にする免疫寛容を誘導する技術の確立が重要である.これについてはサルなどの大動物でもすでに可能になっており,近々臨床応用も開始されることになろう.そのほか異種移植についても研究が進められており,ブタの血管内膜にヒトの抗補体因子を発現させ,その心臓をdiscordantの組合せであるヒヒに移植,2カ月近くの生着例をえるまでになっている.
臓器移植は21世紀に向けて大きく羽ばたこうとしている.

キーワード
腎移植歴史, 日本腎移植症例, 免疫寛容

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