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日外会誌. 98(12): 1023-1029, 1997
特集
最近の新生児外科
9.鎖肛ならびにヒルシュスプルング病の治療
I.内容要旨直腸肛門奇形(鎖肛)は新生児外科疾患・消化管奇形の中で最も頻度の高い疾患である.本症は直腸及び肛門(後腸)の発生異常によって生じる先天奇形の総称で,泌尿生殖器系の異常を含む多彩な病型を含んでいる.1970年代以前の肛門形成術では外肛門括約筋のみが重視されていたが,その後StephensおよびSmithが恥骨直腸筋の重要性を指摘して,恥骨直腸筋係蹄内をpull throughする仙骨会陰式根治術を考案し,この術式が広く行われるようになった.その後1980年代に入りPeña and deVriesが新しい解剖学的概念から恥骨直腸筋および外肛門括約筋間に存在する直腸を取り巻く縦走筋をmuscle complexとして捉え,直腸肛門括約筋群を矢状正中面で切開・切離し直視下にアプローチするPosterior sagittal anorectoplasty(PSARP)法を発表した. Peñaの発表以来,骨盤底筋群の解剖と鎖肛の術式とに新たな検討が加えられつつある.
ヒルシュスプルング病(Hirschsprung’s disease)は先天的に腸管の遠位側の壁内神経節細胞を欠如する疾患で,排便異常を主症状とする代表的小児外科疾患の一つである.生後早期に診断される事が多くなり,以前のように巨大結腸症を呈することは稀となった.本症は神経堤細胞から発生・分化した神経芽細胞が胎生期に食道壁を下降し,肛門側に順次移動していく過程が途中で途絶することで生じる(cranio-caudal migration theory)が,最近,本症に関する分子遺伝学的研究が急速に進んでいる.現在までにRET, glial cell line-derived neutrophic factor(GDNF), endothelin receptor B(EDNRB), endothelin-3(EDN3)の4種類の遺伝子異常が見出されている.これらの遺伝子が神経堤細胞の移動・分化に関与している可能性が示唆されている.一方,新生児期に診断後早期に一期的根治術を施行したり,あるいは腹腔内操作を腹腔鏡下で行い一期的に根治術を行うことが試みられつつある.
このように,直腸肛門奇形(鎖肛)においては骨盤底筋群に関する新しい解剖学的概念が提唱され,この新しい解剖学的知見に基づいて従来の概念を覆す新しい術式が考案され,現在広く受け入れられつつある.ヒルシュスプルング病においては治療はさておき分子遺伝学的研究が急速に進み,本症患者の一部に遺伝子異常が見いだされている.これらの遺伝子異常が本症の成因に関与していることが示唆されている.また,新生児期に一期的根治術を行うことも試みられている.
キーワード
骨盤底筋群, muscle complex , Posterlor sagittal anorectoplasty (PSARP), 遺伝子異常 (RET,GDNF,EDNRB,EDN3)
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