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日外会誌. 98(1): 60-67, 1997
特集
肺癌治療の現状
11. 肺癌に対する重粒子線治療
I.内容要旨平成5年10月,難治がんに対する新しい治療手段として医療専用の重粒子線がん治療装置(Heavy Ion Medical Accelerator in Chiba:HIMAC)が放医研に完成した.翌年6月,頭頸部腫瘍を対象に炭素線を用いて臨床試行が始まった.2年を経た現在,全治療症例は150人に達した.重粒子線は,プラスに電荷した原子核であり,体深部の一定の深さでシャープなtail off(Bragg peak)を形成して止まる.また,質量を有する重い粒子なので,直進する性質を示し側方へ散乱(Penumbra)も小さい.この特性のため癌病巣に高線量を集中させることができる.一方,高LET(Linear Energy Transfer)放射線と呼ばれ高密度のエネルギーを賦与するため高い生物反応が起こり放射線抵抗性癌に対して強力な抗腫瘍効果を示す.現在,治療に用いている炭素線はこの2つの特性を最もバランスよく身につけている.平成6年10月から「非小細胞肺癌に対する重粒子線治療のフェイズI/IIおよびII臨床試行研究」のプロトコールに基づいて肺癌の治療が開始された.対象患者は,手術非適応,肺野型,T1/T2,N0, M0, Stage Iおよび術前照射として胸壁浸潤型T3, N0, M0 Stage IIIAである.96年8月までに病期Iが25名(腺癌15名,扁平上皮癌10名)と病期IIIAは3名(腺癌1名,扁平上皮癌2名)が治療された.炭素線の線量は,59.4GyE,64.5GyE,72.0GyEと10%づつdose upされた.放医研の評価部会を経た17名の患者のうち,病期Iについて治療開始後の局所制御を見ると59.4GyE群は6カ月で全例が制御されていたが12カ月以降は2例に再発が見られれ制御率は50(2/4)%となった.64.8GyE群は12カ月以降に1例が再発したので制御率は75(1/4)%,72Gy群は6カ月までは再発はなく100(6/6,3/3)%である.評価期間は短いが線量に依存する傾向が見られた.副作用として,急性期に放射線肺炎が7(2/28)%に見られた.原因の検討が行われ,呼吸同期装置の導入および照射法の改善により防止出来ることが明らかになった.また,3カ月以降の後期傷害では照射野に限局して軽度の線維性の変化が見られたが臨床症状および肺機能低下は認められなかった.重粒子線治療はこのように安全性の高い治療であることが明らかになったので,現在,さらに手術に匹敵する抗腫瘍効果を目標にトライアルを継続している.
キーワード
肺癌, 重粒子線, 炭素線, 線量分布, 高LET線
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