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日外会誌. 96(12): 799-810, 1995


原著

自家静脈内皮細胞播種によるハイブリッド型人工血管移植実験における組織学的検討

東京大学 医学部第2外科学教室

江上 純

(1994年2月16日受付)

I.内容要旨
小口径人工血管の開発の一つに,ハイブリッド型人工血管の研究が行われている.本研究では高濃度内皮細胞浮遊液を人工血管の繊維間隙に捕捉させる方法を用いてprelined graftを作製し,長期移植実験を行い組織学的に検討した.成犬(純系シェパード 平均体重20.3kg,N=12)の両側外頸静脈より酵素的に内皮細胞を採取し,7~10日間の静置培養後に高濃度細胞浮遊液を作製した.次に超極細ポリエステル繊維人工血管の一端より細胞浮遊液をflushする(filtration法).さらに5日~7日間静置培養した後,このprelined graftを実験犬の腹部大動脈へ移植し,1カ月~4カ月後に標本を回収した.グラフトは12例中11例は開存,移植後2カ月目の犠牲死例1例に閉塞を認めた.各標本について,filtration法の前後の内皮細胞数,人工血管への捕捉率を計測した.flush前9.8±5.2×106/ml,flush後1.2±0.60×106/ml,捕捉率86.4±4.6%であった.また内皮下組織の厚みを計測し,グラフト中央部で播種部:64.17±17.5μm,コントロール:114.2±5.9μmで有意差を認めた(p< 0.05)が,吻合部では播種部:141.7±95.2μm,コントロール:406.8±149.4μm(p< 0.05)で有意差は認められなかった.播種部は開存例全てに内皮細胞による内腔面の被覆とinner capsule,outer capsuleに新生血管が観察された.コントロールでは,pannusの進入と島状の内皮細胞の集落が観察されたが内皮下組織は認められなかった.内皮細胞の被覆のない部位には血栓の付着を認めた.移植3カ月では播種部の器質化は完成し,平滑な内腔面の形成が観察された.本実験で播種した内皮細胞は移植長期にわたり人工血管面を被覆し,その抗血栓と良好な器質化をもたらしたものと考えられた.

キーワード
ハイブリッド型人工血管, 内皮細胞, seeding, 抗血栓性

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