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日外会誌. 95(11): 814-822, 1994


原著

In situ hybridization 法を用いた肝細胞癌における oncogene mRNA の発現に関する研究

岡山大学 医学部第1外科学教室(主任:折田薫三教授)

林 同輔

(1993年5月22日受付)

I.内容要旨
肝細胞癌におけるc-myc,c-Ha-rasおよびN-ras mRNAの発現を組織学的レベルで検索し,これらの癌遺伝子と肝発癌との関連を検討する目的で,37例の切除肝細胞癌症例を対象に,biotin標識DNA probeを用いたin situ hybridizationを行った.コントロールとして非担癌肝硬変13例,非硬変肝16例の計29例を用い,これらを比較検討した.
c-myc mRNAの発現は,肝細胞癌37例中15例 (41%) に認められ,主に癌細胞の細胞質に発現していたが,一部の症例では間質細胞や非癌部にも発現がみられた.また,組織内での発現分布をみると,同一癌巣内でも不均一な発現状態を示し,癌被膜付近に陽性細胞が多い傾向がみられた.
コントロール例におけるc-myc mRNAの発現は,肝硬変13例中5例 (38%),非硬変肝16例中3例 (19%) で,肝細胞癌の発生母地とされる肝硬変で高い発現率が認められた.非硬変肝での発現例は,B型慢性肝炎1例,肝内結石2例であった.いずれも肝細胞の細胞質に発現しており,間質細胞での発現はほとんどみられなかった.
c-myc mRNAの発現と臨床病理学的所見とを検討すると,隔壁形成や被膜浸潤の有無との関連が認められた.肝硬変での発現率の高いことを考え合わせると,c-myc遺伝子が肝細胞癌の発生と進展に関与していることが示唆された.
c-Ha-ras mRNAの発現は,肝細胞癌37例中3例 (8%),N-ras mRNAは32例中5例 (16%) に認められ,主に癌細胞の細胞質に発現していた.発現頻度は比較的低かったが,いずれも早期あるいは分化型の症例に発現がみられ,ras遺伝子が肝細胞の癌発生早期に関わっており,癌が進展すると共にその役割がうすれていくことが推察された.

キーワード
肝細胞癌, 肝硬変, 癌遺伝子, in situ ハイブリダイゼーション, ビオチン標識 DNAプローブ

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