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日外会誌. 95(8): 504-511, 1994


原著

下腸間膜動脈結紮後の組織血流量変化からみた直腸前方切除術における結腸口側切離線の検討

自治医科大学 消化器一般外科

柏木 宏 , 小西 文雄 , 古田 一裕 , 岡田 真樹 , 斉藤 幸夫 , 金澤 暁太郎

(1993年1月23日受付)

I.内容要旨
直腸癌前方切除術の際に下腸間膜動脈を根部で結紮切離した場合,組織血流量を指標とした際に結腸口側切離線をどこに設定すると適切かを明らかにするために本研究を行った.すなわち下腸間膜動脈を根部で結紮切離したあとに左側結腸のどのレベルまでどの程度の組織血流量が達しているかを測定した.手術中の13例を対象に, 1) 操作を加える前のコントロール状態,および, 2) 下腸間膜動脈根部,左結腸動脈および直腸をクランプした状態において,下行結腸S状結腸移行部を第1点とし肛門側に向かい5cmおきの第5点までを設定し,それら各点の組織血流量を,レーザードップラー組織血流量計により漿膜側から測定した.コントロール状態では,下行結腸S状結腸移行部から20cmのレベルまでの組織血流量はレーザードップラー値で2.45±1.31から3.07±1.14に分布し測定点間で有意差はなかった.クランプ状態の組織血流量は,下行結腸S状結腸移行部からの10cmのレベルでは,レーザードップラー値で1.87±0.77であり,15cmのレベルでは1.10±0.40であった.クランプ状態での15cmのレベルのレーザードップラー値は,コントロール状態での15cmのレベルでのレーザードップラー値より有意に低下し,またクランプ状態での下行結腸S状結腸移行部から10cmのレベルまでの各点のレーザードップラー値より有意に低下していた.著者らが既に報告した結果に基づいてレーザードップラー値の1.0が,大腸吻合部の良好な創傷治癒に必要な組織血流量の関係とした場合,下腸間膜動脈を根部で結紮した際,下行結腸S状結腸移行部から肛門側10cmのレベルまでの組織血流量は,大腸吻合部の良好な創傷治癒に充分であった.下行結腸S状結腸移行部から10cm肛門側以内のS状結腸に直腸前方切除の口側切離線を設定することは組織血流量の観点からは適切であると考えられた.

キーワード
直腸前方切除術, 消化管吻合部創傷治癒, 縫合不全, 組織血流量, レーザードップラー組織血流量測定法

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