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日外会誌. 95(5): 306-316, 1994


原著

創傷治癒過程における皮膚微細血管の形態
-高圧注入法の導入とそれを用いた鋳型走査電顕的観察-

東京慈恵会医科大学 第1外科学教室(主任:桜井健司教授)

南雲 吉則

(1993年1月6日受付)

I.内容要旨
難治性皮膚潰瘍の成因解明のため, ラットの皮膚創傷治癒過程における微細血管の形態を,血管鋳型走査電顕法と墨汁注入透徹標本によって観察した.試料は健常ラットおよびストレプトゾトシン(以下STZ)投与による実験的糖尿病ラットの両群を用い,その背部皮膚の健常部位と皮膚・筋膜を一部切除した創傷部位を観察対象とした.方法は合成樹脂を正常血圧で注入する従来の血管鋳型走査電顕法に,さらに高圧で注入する高圧注入法を導入し,これらと光顕標本,墨汁注入透徹標本,走査電顕による表面観察との比較観察を行った.その結果,健常ラットでは,高圧樹脂注入法により従来その詳細が知られていなかった表皮直下に広がる密な網目状の血管網と,毛脂腺系組織の表皮層を直接取り巻く円筒状の微細な血管網が見いだされた.創傷の治癒過程に見られる血管新生は,組織欠損部の周縁と底の毛細血管網の両方から起こる.周縁からの血管新生は健常部表皮直下および毛脂腺系周囲の血管網から始まり,肉芽組織増殖に伴ってループを形成しつつ求心性に創の中央に向かって索状に伸出する.一方,組織欠損部の底からの血管新生は同じく肉芽組織増殖に伴って筋層の毛細血管網から起こり,互いに側方吻合しつつ創の表層に向かって棍棒状に伸び上昇する. STZ投与による糖尿病ラットの皮膚では,健常ラットに較べて高圧注入法においても血管網の描出結果が不良で,表皮直下の血管網は粗な網目を呈していた.また細動・静脈間には動・静脈吻合がよりしばしば観察されたほか,シャント血行が増加するためと思われる拡張不全の細動脈の多いことが注目された.これらの所見は,難治性糖尿病性壊疽の一因とされている皮膚有効血流量の減少状態を形態学的に支持するもので,難治性皮膚潰瘍の病態を解明するうえで重要な知見と思われる.

キーワード
ラット皮膚血管, 血管鋳型走査電顕法, 墨汁注入透徹法, 創傷治癒, 実験的糖尿病

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