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日外会誌. 94(9): 1022-1032, 1993


原著

直腸癌先進部のbiological attitudeを示す組織学的所見の予後規定因子としての意義に関する研究

防衛医科大学校 第1外科(指導:玉熊正悦教授)

長谷 和生

(1992年6月8日受付)

I.内容要旨
直腸癌先進部においてbiological attitudeを示すと考えられる組織学的所見として,族出(budding : bd),癌先進部組織型(histologic type of the invasive front : hif),壁内進展(intramural spread : is),神経浸潤(neural invasion : ni ),癌浸澗様式 (INF)に着目し,これら 5因子の予後規定因子としての意義についてretrospectiveに検討した.1970~85年の間に治癒切除され,5年以上追跡されていた直腸腺癌322例を対象とし,上記5因子について組織学的に再検索した.bdの程度を中等度以上(bd2, 3)と軽度以下(bd0, 1)に分けると,bd2, 3症例の再発率,累積生存率曲線はbd0, 1症例に比べ不良であった(各々p<0.005,p<0.001).hif低分化症例の再発率,生存率曲線はhif高分化・中分化症例に比べ不良であった(各々p<0.005,p<0.001).is陽性例の再発率,生存率曲線はis陰性例に比べ不良であった(各々p<0.05,p<0.001).niの程度を中等度以上(ni2, 3)と軽度以下(ni0, 1)に分けると,ni2, 3症例の再発率,生存率曲線はni0, 1症例に比べ不良であった(各々p<0.005,p<0.001).INFy症例の再発率,生存率曲線はINFα・β症例に比べ不良であった(各々p<0.05,p<0.01).一方,林の数量化理論II類により再発,術後5年以上生存に関与する病理学的因子を多変量解析すると,上記5因子がいずれも高位を占めた.またbd2, 3,hif低分化,is陽性,ni2, 3,INFγの5因子のうちいずれか1因子以上有する症例の累積生存率曲線は,1因子も有さぬ症例に比べ不良であった(p<0.001).進行度別にみても,同じDukes'BあるいはCに属す症例でも1因子以上有する症例の生存率は,1因子も有さぬ症例に比べ不良であり,特にDukes'Cで1因子も有さぬ症例の生存率は,Dukes'Bで1因子以上有する症例の生存率より不良の傾向はなかった.以上のことより,癌先進部のこれら5因子は,癌の悪性度や浸潤に関する旺盛なbiological attitudeを表し,また予後規定因子として有用な指標と考えられた.

キーワード
直腸癌先進部, 癌の biological attitude, 予後規定因子, 先進部組織型

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