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日外会誌. 94(8): 853-862, 1993


原著

心虚血にあたえる大動脈遮断の影響に関する臨床的ならびに実験的研究

東京大学 医学部第1外科

永嶌 嘉嗣

(1992年4月2日受付)

I.内容要旨
閉塞性動脈硬化症 (ASO),腹部大動脈瘤 (AAA) の手術では術後心合併症が多く手術死亡原因の大半を占めている.この原因は手術対象となる患者が虚血性心疾患を高率に合併し,大動脈遮断にともなう血行動態の変動が心機能を増悪させるためだと考えられてきた.筆者らはこの仮説に関して臨床的,実験的な検討を行った.
臨床的検討では1980年から1989年の10年間の手術症例のうち, AAA, ASOで大動脈遮断を施行した235例を対象とした.虚血性心疾患の合併は65例28%に認められた.術後心筋梗塞はAAA3例, ASO3例, AAA破裂2例,合計8例に起こりそのうち4例が死亡しており,術後心筋梗塞による死亡率は1. 7%であった.大動脈遮断中に著明な血庄上昇を来した症例は31例あったが,そのうち術後心筋梗塞発生は1例のみであった.またAAA非破裂例とASOでは術後心筋梗塞発生の危険性はほぼ同程度であった.術後心筋梗塞は1例を除き3POD以降に起こっており,大動脈遮断との直接の関連は少ないと考えられた.
実験的検討ではイヌを用いて冠動脈狭窄を作成し, 6群に分けて大動脈遮断を負荷した.腎動脈下大動脈遮断 (1~ 4群) では血行動態の変動は少なく,ほとんどの指標で有意の変化を示さなかった.胸部下行大動脈遮断では狭窄群 (6群) で遮断後に心拍出量が有意に (p<0.05) 増大し,(前後比1.12±0.09),遮断解除後に有意に (p<0.05) 減少した (前後比0.79±0.07).胸部下行大動脈遮断の正常群 (5群)では心拍出量の変動は対照的であった.また6群で遮断後に心筋虚血が増悪したと考えられる現象が観察されたが, 5群6群間で血行動態の諸指標には有意差を認めなかった.大動脈遮断は心筋虚血を増悪させることがあるが,それが直接術後心筋梗塞の原因となることは少ないと考えられた.

キーワード
大動脈遮断, 術後心筋梗塞, 心筋虚血, 冠動脈狭窄

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