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日外会誌. 94(3): 302-310, 1993


原著

自家静脈 graft における静脈弁起因の限局性内膜過形成

東京慈恵会医科大学 第1外科学教室(指導:桜井健司教授)

大木 隆生

(1991年10月15日受付)

I.内容要旨
自家静脈移植術後の晩期狭窄や閉塞の原因となる限局性進行性内膜過形成が, 静脈弁の存在といかなる関係があるかを検討するため, 家兎の頸動脈に, 弁部を含む同側の外頸静脈を移植(reversed)した.移植4週後に, Bromodeoxyuridine(BrdU)の静注に引き続いて反対側の外頸静脈(対照)とともに移植静脈(静脈グラフト)を摘出してパラフィン包埋連続切片を作製した.得られた連続切片にはHE染色, 弾性線維染色, および抗BrdU抗体による免疫染色を施した.弁の存在しない部位, すなわち無弁部の内膜と弁洞内の内膜に分け, 光学顕微鏡で観察するとともに画像解析装置で内膜の肥厚度を測定した.さらに抗BrdU免疫染色より各々の内膜のBrdU標識率を算出した.
対照静脈の無弁部, 弁洞内の内膜のいずれにも肥厚は認めなかったが, 弁洞側壁の内弾性板は無弁部のそれに比してより高度の不連続性を呈していた.静脈グラフトの弁洞内の内膜は無弁部のそれと比較して以下の特徴的所見が認められた.すなわち弁洞内の内膜は, 1) 高度の内膜過形成を呈し(弁祠内269±137μm, 無弁部84±25μm p<0.01), 2) 内膜内(8/11, 73%)には多くの新生血管を認め, 3) 大小の出血巣があり, 出血巣の一部は器質化, 石灰化像を呈し, さらに, 4) 内膜構成細胞のBrdU標識率は高く, とりわけ新生血管周囲で高値を示した(弁洞内3.1±2.4%, 無弁部1.1±0.3% p<0.01).
弁洞内の内膜は肥厚度とともにBrdU標識率が高く, 限局性進行性内膜過形成へと進展する可能性が強い.この内膜過形成が進展するには内膜内の新生血管が重要な役割を演じている.この弁洞に限局した内膜過形成の発生要因として, 弁洞内の内弾性板の不連続性が重要と考えられる.

キーワード
自家静脈移植術, 内膜過形成, 静脈弁, 血管新生, 内弾性板

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