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日外会誌. 94(3): 285-296, 1993


原著

開心術後上室性不整脈に関する実験的研究
-特に結節間伝導路障害と徐脈性不整脈の関係を中心に-

高知医科大学 第2外科学教室(主任:田宮達男教授)

公家 健志

(1991年10月1日受付)

I.内容要旨
大血管転位症や心房中隔欠損症などに対する心房位修復術後にみられる, 上室性不整脈の発生機序はまだ明確にされたとはいえない.これらのうち, 徐脈性不整脈と心房内結節間伝導路(以下結節間路)の障害との関連を解明するため, 以下の実験を行った.雑種成犬30頭を用い, 体外循環下拍動心に, (1) 前, 中, 後結節間路に相当する部位に切断を加え, 右房心内膜面の30点をマッピングし, 洞結節一房室結節近傍伝導時間, 興奮伝播パターンの変化を検討, (2) 同様の障害を順次加えていくことによる調律の変化を検討した.結果: ①対照心では分界稜 (crista terminalis) とその前方への延長筋束 (arch of the crista) に相当して伝導の速い部位があり, それぞれ後, および前結節開路にあたると考えられた.②洞結節一房室結節近傍伝導時間は, 前結節間路の切断で, 有意に約15msec (p<0.01) 延長したのに対し, 中, あるいは後結節間路の切断では, 有意な延長はみられなかった.③興奮伝播図では, 各切断部位の心室側で伝導の遅延がみられた.④各結節間路の切断の位置(上下)並びに切断の数による伝導時間の差異はみられなかった.前結節間路に関しては, 初回の切断で伝導時間の延長 (約17msec) がみられたが, 2回目の切断ではほとんど延長しなかった.⑤前, 後結節間路の2本, あるいは中結節間路を加えた3本を切断した群で, 洞調律持続率は約50%となり, 2本以下の切断を加えた他の群より有意(p<0.05)に低下し, 房室接合部調律を主とする徐脈がみられた.従って, 心房手術侵襲に起因する徐脈性不整脈の発生には, 前, 後結節間路双方の切断による, 興奮の伝導遅延, 入力低下などが重要な要因であることが示唆され, この種の不整脈の防止には, 少なくとも, 前, 後2経路のいずれかの温存が肝要と考えられた.

キーワード
心房内手術, 上室性不整脈, 結節間伝導路, 心内膜面マッピング

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